咢堂ブックオブザイヤー2022
当財団では2014年より、憲政および国政・地方自治や選挙などに関するすぐれた書籍を顕彰する「ブックオブザイヤー」を制定し、今年で9回目になります。
選考には以下の4つの基準を設けています。
1.原則2022年の著作であること(対象期間:2021年11月26日~2022年11月25日)
2.スタッフおよび選者が実際に自費購入し、購入者の視点で推薦できる書籍であること
3.政治全般(国政および地方自治、選挙や演説など)において、すぐれた著作であること
4.上記のほか選考年の社会情勢を鑑み、授賞にふさわしいと当財団が特に認めたもの
本年は以下の作品に賞を贈る運びとなりました。
2022年の選考および授賞理由についてはこちらをクリックください。
PRESS RELEASE「咢堂ブックオザイヤー2022の発表について」
大賞(各部門50音順)
総合
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日本の総理大臣大全(八幡和郎)
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国政
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異論正論(石破茂)
大平正芳とその政治 再論(大平正芳記念財団)
日本沈没を食い止めろ!(音喜多駿/永江一石)
知らないと後悔する 日本が侵攻される日(佐藤正久)
日本に20代国会議員がいなくなる日(馬場ゆうき)
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地方・自治体
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「想定外」をやっつけろ!(江川紹子)
不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ(白鳥和生)
15歳からの社会保障(横山北斗)
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選挙
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自民党の女性認識 「イエ中心主義」の政治指向(安藤優子)
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演説
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最強リーダーの「話す力」(矢野香)
アンゲラ・メルケル演説選集 私たちの国とは何なのか
(藤田香織/ 木戸衛一)
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メディア
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メディアが報じない戦争のリアル(小川和久)
“安倍後"を襲う日本という病(門田隆将/結城豊弘)
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外交・安全保障
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集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか(篠田英朗)
平成防衛史 令和に委ねる憲法改正(田村重信)
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日本の総理大臣大全
著者:八幡和郎
発行:2022年1月28日
出版社:プレジデント社
【出版社サイトより】近現代史は日本人にとって常識!明治から令和まで、歴代内閣136年の歩みで学べば、近現代史はよく理解できる!
異論正論
著者:石破茂
発行:2022年6月20日
出版社:新潮社
【出版社サイトより】意見が対立することや面倒な議論を政治家は先送りにしてきた。経済、医療、安全保障等、すべてにおいてツケは溜まっていくばかり。次の世代がその負債を背負わされ、国が滅びていくのを見過ごして良いはずがない。ならば、どんなに煙たがられようとも、異議を唱え、信じる正論を語り続けるしかないではないか――政界きっての政策通が新型コロナ禍から国防まで直近のテーマをもとに正面から堂々と語る論考集。
大平正芳とその政治 再論
編著:大平正芳記念財団
発行:2022年10月17日
出版:PHPエディターズ・グループ
【編著者サイトより】大平正芳は、「聞く、読む、書く」を兼ね備えた政治家と称され、「楕円の思考」「永遠の今」など独自の思考を打ち出しました。総理としては短い在任期間ながら、「政策研究会」を設置、「9つの研究グループ」で日本の国家ビジョンを策定し、それは現在の政策の一部にも取り入れられております。現在と近似した1970年代における大平正芳の政治思想を振り返り、日本政治の長期的視野形成の一助となることを祈念しての発刊です。
日本沈没を食い止めろ!
著者:音喜多駿/永江一石
発行:2022年4月10日
出版:リチェンジ
【Amazonサイトより】政府は「子どもを産め」というけれど、賃金は上がらず、自分の生活だけで精一杯。このままでは出生率は上がるわけがない。そもそも少子化対策として何をすべきなのか。経済を良くするために消費税を増税すべきなのか。こんなに日本は大変なのに、なぜ真面目に働かない政治家が多いのか。なぜ重要な問題が国会で議論されないのか。日本の競争力が落ちている中で、打てる手はあるのか。日本が生き延びるためにいま必要な改革は何か。
知らないと後悔する 日本が侵攻される日
著者:佐藤正久
発行:2022年8月25日
出版社:幻冬舎
【出版社サイトより】2027年、日本がウクライナになる――。決して脅しではない。習近平国家主席が4期目を決めるこの年に、世界は大きく動くことになるだろう。ロシア、中国、北朝鮮に囲まれた我が国の危険性は、日増しに高まるばかりである。AIや衛星が主流の現代の戦争においては、海は陸地化しており、島国は安全という理屈も通用しない。元自衛官で「戦場を知る政治家」である著者が指摘する日本防衛の落とし穴。
日本に20代国会議員がいなくなる日
著者:馬場ゆうき
発行:2022年9月15日
出版社:国政情報センター
【出版社サイトより】福島県出身。平成生まれ初、20代唯一の衆議院議員になった著者。「国より地域。現場こそ全て」の想いで福島の復興に全てを傾けていた彼が思いがけず政治家になり、なったばかりの今だからこそ見えているものは?決して忘れてはいけない「政治」の本質を問いかける珠玉の書。
「想定外」をやっつけろ!
著者:江川紹子
発行:2022年7月7日
出版社:時事通信社
【出版社サイトより】速やかなワクチン接種、地域完結型の医療体制の整備など、極めて迅速で効果的だったと評される東京墨田区のコロナ対応を検証する。
本書では、なぜワクチン接種を速く進めることができたのか、ワクチン以外にどのような対策が有効だったのかを見ていくことにする。墨田区の取り組みと知見を記録として残すことで、危機時における地方自治体のあり方を考える参考にしていただければ、と思う。
不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ
著者:白鳥和生
発行:2022年11月1日
出版社:プレジデント社
【出版社サイトより】「厳しい環境だからこそ、たくましい筋肉をつけて全国進出できた。本州進出は怖かった。でも北海道の企業はローコスト経営で強い」ニトリHDの似鳥昭雄会長が語るように「北海道の小売」の経営はどんな逆境でも生き抜く「強さ」を持っている。なぜ、少子高齢化が進む縮小市場で「拡大」できたのか?
15歳からの社会保障
著者:横山北斗
発行:2022年11月25日
出版社:日本評論社
【出版社サイトより】家族、学校、お金、仕事、住まい、体調…。生活の困りごとに対応するための社会保障制度。知識があなたや大切な誰かの力になる。
自民党の女性認識 「イエ中心主義」の政治指向
著者:安藤優子
発行:2022年7月7日
出版社:明石書店
【出版社サイトより】自民党は長らく、女性を従属的な「わきまえる」存在と見なし、「イエ中心主義」の政治指向を形成してきた。戦後の保守再生の流れの中で、そうした女性認識はいかに形作られ、戦略的に再生産されてきたのか。国会に女性が増えない原因を解き明かす画期的試み。
[増補改訂版]フルカラー図解 地方選挙必勝の手引
著者:松田馨
発行:2022年10月7日
出版社:選挙の友出版
【出版社サイトより】SNS編など最新の情報に加筆修正!公職選挙法の改正に対応!選挙プランナー松田馨が15年以上の経験から導きだした選挙必勝法を徹底解説
最強リーダーの「話す力」
著者:矢野香
発行:2022年9月25日
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
【出版社サイトより】「好かれる話し方」でも「分かりやすい話し方」でもない、「リーダーらしく見える話し方」とは?本書では、古今東西の優れたリーダーたちが実践している「秘伝のテクニック」を多数紹介していきます。あなたが今までどんなに話し方の本を読んで勉強してもモノにできなかった「人を動かす話し方」が身につく一冊です!
アンゲラ・メルケル演説選集 私の国とはつまり何なのか
藤田香織(訳)/木戸衛一(解説)
発行:2022年8月30日
出版社:創元社
【出版社サイトより】ドイツ初の女性首相として2005年から16年にわたり政権を握ったアンゲラ・メルケル。旧東独出身の物理学者らしく、派手なパフォーマンスはほとんどせず、事実に即した淡々とした言動が特徴的だった。本書は、彼女の幾多の演説の中から特に印象的な3編を、旧東独の老舗出版社編集長が厳選した選集である。日本版には豊富な訳注と解説を追加し、演説を通じて、激動の世界情勢におけるメルケル政権、そして統一ドイツの在り方を振り返る。
メディアが報じない戦争のリアル
著者:小川和久
発行:2022年10月15日
出版社:SBクリエイティブ
【出版社サイトより】ロシアによるウクライナ侵攻により、軍事に無関心だといわれる日本人も、これまでになく国防意識が高まっている。中国が日本を侵略することはあるのか。北朝鮮からミサイルは飛んでくるのか。有事の際に問われるのは日本の「戦争力」である。単純な軍隊による戦力だけではない、地政学的な位置づけから防衛に関する政治力まで、国を守るべき「戦争力」をあらためて問う。
“安倍後”を襲う日本という病
著者:門田隆将/結城豊弘
発行:2022年9月1日
出版社:ビジネス社
【出版社サイトより】犯人の思惑に踊り、ネットに完敗したマスコミ。要人警護できず、事件の背後に迫れない警察。偽善社会の病理と致命的欠陥に、反骨のジャーナリストと名物テレビマンが斬りこむ!
フェイクニュースに騙されない!本物の情報の掴み方、分析力の磨き方がわかる本。
ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください
著者:西田亮介
発行:2022年4月1日
出版社:日本実業出版社
【出版社サイトより】「よくわからないけどダメそう」な日本の政治について、気鋭の若き社会学者と考える。生まれたときから当たり前のようにあるけれど、正体はよくわからない「民主主義」や「自由」の価値と意味。
ウクライナの教訓 反戦平和主義が日本を滅ぼす
著者:潮匡人
発行:2022年9月30日
出版社:育鵬社
【出版社サイトより】独善的な正義が覆う“お花畑”の日本にロシアの侵攻を予測した軍事評論家が警鐘を鳴らす!
善と悪が戦っている時に中立的姿勢をとる欺瞞。国連の機能不全が示した空想的平和主義の崩壊。日本は人間不在の防衛論議のままでいいのか? 日本の安全保障と憲法改正の問題点を指摘する。
集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか
著者:篠田英朗
発行:2022年11月18日
出版社:PHP研究所
【出版社サイトより】「集団的自衛権をもたない国は侵攻される」。ウクライナをはじめ、世界がロシアの暴虐から得た教訓である。ところが、日本には「集団的自衛権は憲法違反」という珍奇な説を訴える人々がいる。国際社会の合意、平和維持のルールを突き崩そうとする危険な主張にほかならない。今こそ、日本を守る集団的自衛権の意味を正しく伝えることを試みたい。
平成防衛史 令和に委ねる憲法改正
著者:田村重信
発行:2022年11月19日
出版社:内外出版
【出版社サイトより】日本はもっと自主的に防衛努力をしないといけないのです。 自民党の憲法に自衛隊を明記するといった程度の話では限界なのです。 本書は、安全保障・憲法に関心のある大学を始め一般社会人向けにも読んでもらえるように、また、正しい安全保障に関する知識を広く普及させることを目的に執筆したものです。
相馬雪香特別賞(50音順)
相馬雪香特別賞
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「アマゾンおケイ」の肖像(小川和久)
ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記(ズラータ・
イヴァシコワ)
ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力(マデリン・チャップマン/西田佳子)
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「アマゾンおケイ」の肖像
著者:小川和久
発行:2022年9月30日
出版社:集英社インターナショナル
【出版社サイトより】女手ひとつで自分を育てた「母」の数奇で破天荒な人生を丹念に追跡し活写!──熊本の没落地主の家に生まれ、13歳で叔父夫婦とブラジルへ移民、開拓農場を脱走してダンサー&タイピストとして自活。横浜でカフェを経営し、ビジネスを学びに渡った上海でアメリカ人外交官と運命の恋に落ちるが、破局。しかし宝くじで一攫千金! 女性実業家として大成功するが、戦中戦後の混乱ですべてを失い……「いついかなるときでも、凜とした女性として一度たりとも誇りを失わなかった」と著者が回想する「母」に捧げた傑作ノンフィクション!
ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記
著者:ズラータ・イヴァシコワ<文・絵>
発行:2022年10月15日
出版社:世界文化社
【出版社サイトより】「みなさん、明日は戦争になります」─。もし、学校の先生から突然こう言われたら?人見知りだった16歳の少女は、たった一つの夢にすべてをかけて祖国から脱出することを決意した。
持っていけたのは、1冊の本とスケッチブック。敵は兵士や爆弾だけではない。コロナとの闘い、親子の葛藤、運命的な親友との出会い。これは夢が明日につながると信じた少女の等身大のサバイバル日記だ。
ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力
著者:マデリン・チャップマン/西田佳子(訳)
発行:2021年11月30日
出版社:集英社インターナショナル
【出版社サイトより】こんなリーダーが欲しかった!迅速な判断と、丁寧な発信の結果、2020年、いちはやく新型コロナの封じ込めに成功したニュージーランドの首相、ジャシンダ・アーダーン。常にリーダーになりたくないと言っていた彼女が首相になったのはなぜか。世界が注目する新しいタイプのリーダーに迫る評伝!
2022年の選考および授賞理由について
尾崎財団の書籍顕彰事業「咢堂ブックオブザイヤー2022」。2014年の創設から9回目となる本年は、「憲政の父」と呼ばれた咢堂(がくどう)・尾崎行雄にちなんだ7部門を基準に、対象期間(前年11月26日~今年の11月25日)に出版された書籍に注目。一昨年から続くコロナ禍、そしてロシアのウクライナ侵攻ほか激動の世界情勢を考えるうえで活発な議論や思索に資することを基準に、不偏不党の立場で選ばれました。
総合部門の八幡和郎氏『日本の総理大臣大全』は、1855年の伊藤内閣発足以来101代にわたる総理大臣を通じて、それぞれの内閣が直面した課題と事績、当時の時代背景などを学ぶことができ、「わが国の政治史を総覧できる」点が圧倒的な支持を得ました。近年の当財団・咢堂塾では憲政史の講義にも力を注いで いますが、「ぜひ副読本にしたい」という激賞や、また有権者に対する諫言で 結ばれた巻末エピローグにも「ここが何より良い」という声がありました。
国政部門には、石破茂・衆議院議員の『異論正論』、大平正芳記念財団の『大平正芳とその政治 再論』、音喜多駿・参議院議員と永江一石氏による『日本沈没を食い止めろ!』佐藤正久・参議院議員の『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』、馬場ゆうき・衆議院議員の『日本に20代国会議員がいなくなる日』がそれぞれ選ばれました。
『異論正論』はわが国にとって不可避である現在進行形の課題を正面から捉え、損得を超えた本質的な議論を読者に投げかける姿勢が高く評価されました。また論考の随所にちりばめられた「そもそも」論に基づく読者への問いかけ、中でも第5章や第9章、巻末を飾る第21章などは本書の中核といって譲らない選者が出るほどでした。
『大平正芳とその政治 再論』は歴代のブックオブサイヤー国政部門の中でも、初の本人以外による書籍です。「哲人宰相」として現在も仰がれる大平正芳・第69代内閣総理大臣、その事績や思想を多角的に論じた「大平研究の決定版」とよべる一冊です。単なる回顧ではなく「最近の内外情勢に関し、もし大平氏が生きておられたら、現状をどう評価し、どのような政治選択をしたか」に焦点を当てたねらいも秀逸であり、現代の政治家にとって指標となる点が高く評価されました。
『日本沈没を食い止めろ!』は国政部門唯一の共著で、コンサルティングの視点から見た政治課題が全部で29項、3章にわたり分かりやすく的確に語られています。第2章では中谷一馬・衆議院議員、第3章では藤末健三・衆議院議員とそれぞれ鼎談の形式で展開し、与野党いずれの立場でも首肯できるロジカルな点も高く評価されました。「それぞれの対談や鼎談の場に居合わせたら、 きっと面白かったに違いない」という意見も聞かれました。
『知らないと後悔する 日本が侵攻される日』は著者にとって今年2冊目となる書籍です。国会随一の識者として広範囲な安全保障論を分かりやすく紐解き、しかもそれが現場経験に裏打ちされている点が多くの支持を集めました。プロローグに掲げられた「平和主義は大いに結構。でも敵はかまわず攻めてくる」の一文は、国際社会の厳しい現実を読者に突きつけます。
『日本に20代国会議員がいなくなる日』は、2021年に衆議院議員選挙の初当選を飾った著者の初心と、もっとも有権者に近い立場から見た政治の「定義」や、与野党の在り方を率直に語ったコラムの数々が共感を集めました。2021年の衆議院初当選議員は97名いますが、SNSやブログと違い削除や上書きが許されない「書籍」という形で自らの決意を語ったのは、今日まで実に著者ただ一人でありました。
地方・自治体部門は、自治体行政や地方創生など、国よりも地方や自治体にターゲットを絞った範囲で特筆すべきテーマと向き合った3氏の最新著作がそれぞれ高く評価されました。
江川紹子氏の『「想定外」をやっつけろ!』は、取材力に定評の高い著者が医療や議会、行政トップなど各現場の奮闘を丹念に綴った貴重な記録です。「墨田区モデル」と呼ばれるほどの注目を集めた一連のコロナ対策は行政と医療の連携の賜物であり、またスピーディな意思決定も首長の専決事項でなく、議会との二元代表制が円滑に機能した成果であることを明らかにしてくれました。
白鳥和生氏の『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』は、流通分野の調査や分析を専門とする著者が北海道の小売業にスポットを当て、採り上げた企業それぞれの強さの源泉を明らかにした点が支持を集めました。近年注目される「パーパス」や「ビジョナリー」「バックキャスティング」など経営学の視点で各社の事例が語られると同時に、著者の北海道に対する愛着や思い入れが行間から溢れ出ている点も多くの共感を集めました。
横山北斗氏の『15歳からの社会保障』は、「〇〇歳からの~」という書名が乱立する中、書名に対する納得感(=義務教育の終了)からはじまり、日常生活でピンチに見舞われた10人のストーリーを通じて社会保障制度を優しく学ぶことができる点が高く評価されました。「知らなければ、利用できない」一方、「知らないことは、個人の責任では決してない」とは巻頭と巻末それぞれの見出しですが、選者の中には「すべての中学校教室に1冊あって欲しい」という声もありました。
選挙部門の安藤優子氏「自民党の女性認識」は書名が示すとおり、自民党において選挙候補者がどのように擁立され、そして有権者への選択肢として提示されているのかを丹念に分析した、選挙の在り方を考えるうえでも有益な研究成果です。「女性代表が国会においてかくも少ないのか?」そして「なぜ、女性に対する認識が政治の世界で障害になっているのか」が丁寧に解き明かされています。中でも候補者のキャリアパスに関する考察は秀逸で、同党の支持如何に関わらず、すべての有権者が選挙の際に考えるべきテーマでもあります。
松田馨氏の『[増補改訂版]フルカラー図解 地方選挙 必勝の手引』は、2018年の咢堂ブックオブザイヤー選挙部門に輝いた書籍の改訂版であると同時に、有権者にとってもっとも身近な地方選挙、その候補者必携の決定版です。候補者にとってはバイブルとして、また有権者にとっても候補者を見定める際のベンチマークとなる視点が満載です。単なる当選マニュアルではなく、「なぜ、立候補するのか」候補者にその覚悟を改めて問いかける一冊でもあります。
演説部門には矢野香氏の『最強リーダーの「話す力」』、藤田香織氏/木戸衛一氏『アンゲラ・メルケル演説選集 私の国とはつまり何なのか』の2冊が選出されました。
『最強リーダーの「話す力」』は長崎大学准教授でもある著者の、最新研究の集大成です。書名こそリーダー向けと思いきや、読み進めると誰もが「もう一人の自分」のリーダーであると気づかされます。咢堂ブックオブザイヤーは様々な分野の良書が並びますが、同書は最も実践的な作品のひとつであり、また一般教養のテキストとしても古今東西の豊富な名スピーチの数々にニヤリとさせられます。
ドイツのアンゲラ・メルケル前首相の代表的な演説選集は、今回選出された書籍の中でもページ数が80と少ない一方、丁寧に紡がれた翻訳の情感とポイントを押さえた注釈、そして現代のドイツ情勢や時代背景を考えるうえでも示唆に富む解説が「単なる翻訳本とは一味も二味も違う」と賞賛を集めました。小冊子ながらも高級感あふれる装丁には出版社の熱意が感じられ、朗読することで五感が揺さぶられる。そんな評も寄せられました。
メディア部門には小川和久氏『メディアが報じない戦争のリアル』、門田隆将氏/結城豊弘氏の『“安倍後”を襲う日本という病』、西田亮介氏『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』の3冊が選ばれました。
『戦争のリアル』は、最新の各国軍事情勢にまつわる様々な疑問に一問一答形式で展開する、まさに「メディアが報じない」部分を考えるうえで最良のテキストです。著者はわが国随一の軍事アナリストとして有名ですが、その出発点はジャーナリストであることを再認識させる一冊でもあります。「民主主義の基本は記録と検証」という政府にとって耳の痛い直言や、「オペレーション希望」と題された終章の数頁は、与野党すべての国会議員必読です。
活字メディアとテレビ放送、それぞれの分野のエキスパートでもある門田・結城両氏による共著は、対談を通じてマスメディアの宿痾をあぶり出した「パンドラの箱」のごとき一冊です。「社名に守られた匿名」と違い、自らの名前で発言することは相当の覚悟が伴います。本音の対談は単なるOBの自己批判に留まらず、災厄があふれ出た最後に残る「希望」を感じさせるものでした。
『ぶっちゃけ、誰が~』は「戦争のリアル」と同様、政策・メディア論を専門とする著者が一問一答形式で読者の疑問に答える分かり易さが支持を集めました。その一方で書籍を通じて獲得できる知識は著者いわく「賭場口」に過ぎず、あとがきで提示された願いには「やられた!」と感じた選者も少なくありませんでした。
外交・安全保障部門は、当財団主宰「咢堂塾」のカリキュラムでも特に注力している分野ですが、本年は潮匡人氏の『ウクライナの教訓 反戦平和主義が日本を滅ぼす』、篠田英朗氏の『集団的自衛権で日本は守られる なぜ「合憲」なのか』、田村重信氏の『平成防衛歴史 令和に委ねる憲法改正』がそれぞれ選ばれました。
『ウクライナの教訓』は本年もっとも注目すべき出来事であったロシアによるウクライナ侵攻、その一連の推移を「他人事としてではなく、わが事として向き合う上でとても参考になった」という声が数多く聞かれました。著者自身が「服務の宣誓」を行なった経験の持ち主(航空自衛官出身)であることの説得力や、本書の理解を促す引用の多彩さ、的確さにも注目が集まりました。
『集団的自衛権で日本は守られる』は平和構築の専門家であり実践者でもある著者の最新刊です。国際社会における日本の安全保障、その在り方を正々堂々と正面から論じた点が高く評価されました。わが国の平和と安全は、憲法や安全保障関連法などの国内法規のみで担保されるものではなく、「国際社会における秩序の維持や、他国との関係を考えることが不可欠である」ことを論理的に解き明かしてくれます。
『平成防衛史』は、わが国の安全保障関連法の成立に携わってきた著者の異名でもある「安全保障の田村」、その面目躍如と呼べる一冊です。平成期における国防環境は相次ぐ大規模災害やPKOなど、戦後の一大転換期でもありました。その全てに実務者として関わり、昭和期にはタブーですらあった「安全保障をめぐる議論」が今や国民的関心まで引き上げられました。著者の歩みは書名が示すとおり、まさに平成期における「国防の歴史」でもあると言えます。
また、各部門以外でも特筆するべきと認められた書籍には当財団の副会長を長らく務めた尾崎三女・相馬雪香の名を冠し、「相馬雪香特別賞」として広範囲なジャンルより選出、ここに称えることと致しました。
小川和久氏の『「アマゾンおケイ」の肖像』は、メディア部門大賞に選出された著者の最新刊であり、主人公の「おケイ」こと著者の母・小川フサノ氏の評伝です。戦前のサンパウロ、戦中の上海、そして戦後東京の三都を舞台に全力で生き抜いたおケイの生涯は逞しさとしなやかさに満ち溢れ、相馬雪香を戴く賞にもっともふさわしいという声が相次ぎました。膨大な一次資料に基づくドキュメンタリーとしても秀逸で、選者の間での購読率がもっとも高かった一冊でもあります。
『ウクライナから来た少女 ズラータ、16歳の日記』は、ロシアのウクライナ侵攻がきっかけで祖国を離れた著者が、初めて訪れた日本、その国の言葉で紡がれた驚くべき一冊です。16歳の彼女を通して語られる「戦争のリアル」は、考えさせられることの多い書籍でもありました。72頁、175頁、193頁、そして221頁などに刻まれた言葉の数々は「胸に突き刺さった」という声が数多く上がりました。
また、選者の中には「相馬雪香が健在だったら、もっとも称えたであろう一冊」という声もありました。
『ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力』は弱冠37歳でニュージーランドの第40代首相に就任したジャシンダ・アーダーン首相の、現在進行形の評伝です。トップリーダーとしての本質は若さのみにあらず、むしろさまざまな国家の危機や悲劇に正面から向き合い、そのたびに発してきた国民との対話やメッセージの数々にこそ窺えます。特に結びのスピーチ集は圧巻で、「日本の政治家も大いに見習ってほしい」そんな辛辣な選評もあるほどでした。
一昨年からのコロナ禍が今なお続き、更にはロシアのウクライナ侵攻が世界中に暗い影を落とした-2022年は近年例を見ないほど陰鬱な一年でありました。
そのような時代だからこそ、不安や閉塞感を薙ぎ払うきっかけになってほしい。
そう願いを込め、私たち尾崎財団は以上の各書籍を「咢堂ブックオブザイヤー2022」に選定し、著者はじめ出版に携わった関係者、出版社の皆様に対し、敬意と感謝を込めてここに讃える次第です。またこのたびの発表をご覧の皆様におかれましても、ぜひとも政治の中心地・永田町1丁目1番地1号※で選ばれた各書の魅力に触れ、2023年を希望とともに迎える一助にいただけることを願ってやみません。
以上文責・高橋大輔(尾崎行雄記念財団研究員・IT統括ディレクター)
※現在は改築のため、1丁目8番1号に代替移転中