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尾崎財団が選んだ「今年の本」。いずれも財団書庫(咢堂文庫)でお読み頂けます。

咢堂ブックオブザイヤー2023


当財団では2014年より、憲政および国政・地方自治や選挙などに関するすぐれた書籍を顕彰する「ブックオブザイヤー」を制定し、今年で10回目になります。
選考には以下の4つの基準を設けています。

1.原則2023年の著作であること(対象期間:2022年11月25日~2023年11月25日)
2.スタッフおよび選者が実際に自費購入し、購入者の視点で推薦できる書籍であること
3.政治全般(国政および地方自治、選挙や演説など)において、すぐれた著作であること
4.上記のほか選考年の社会情勢を鑑み、授賞にふさわしいと当財団が特に認めたもの

 本年は以下の作品に賞を贈る運びとなりました。
 2023年の選考および授賞理由についてはこちらをクリックください。

 PRESS RELEASE「咢堂ブックオザイヤー2023の発表について」武田翔 県政レポート

大賞(順不同)

総合
人間学のすすめ(北尾吉孝)
国政
戦 TELL-ALL BOOK(青山繁晴)
日本改革原案 2050(小川淳也)
どうする、野党!?(直諫の会)
地方・自治体
思宗紀(大石宗)
社会の変え方(泉房穂)
吉村洋文の言葉 101(結城豊弘)
選挙
演説
世界を動かした名演説(池上彰/パトリック・ハーラン)
メディア
イスラエル(ダニエル・ソカッチ/鬼沢忍)
外交・安全保障
ウクライナ戦争(小泉悠)
現代戦略論(高橋杉雄)

人間学のすすめ

著者:北尾吉孝
発行:2022年12月20日
出版社:致知出版社
【出版社サイトより】野村証券で“伝説の営業マン”として名を馳せ、ソフトバンク入社後は孫正義氏の懐刀として活躍。
その後、SBIホールディングスを創業し、一大インターネット総合金融グループに育て上げた北尾吉孝氏の随筆集。

戦 TELL-ALL BOOK

著者:青山繁晴
発行:2023年11月5日
出版社:ワニブックス
【出版社サイトより】作家としても意欲的にノンフィクションや小説などの作品を発表し続ける参議院議員の青山繁晴氏。青山氏の名著のひとつである『ぼくらの哲学』(2017年刊)に書下ろしの新章を加えての新書化。たった一度の敗戦で国家の理念や哲学を失ったと思い込んできた、あるいは思い込まされてきた我々日本人。そんな私たちが今こそ再確認すべき「公のために生きる哲学」を考えるためのテキストとなる一冊です。

日本改革原案2050

著者:小川淳也
発行:2023年10月20日
出版:河出書房新社
【出版社サイトより】長らく入手困難となっていた『日本改革原案』が待望の復刊! 改訂の上、新規序文と電子書籍版のみに収録されていた増補を追加収録。未来の総理候補として注目を集める小川淳也の原点。

40代政党COO 日本大改革に挑む

著者:藤田文武
発行:2023年10月1日
出版:ワニブックス
【出版社サイトより】「政党を経営する」というコンセプトを打ち出し、ベンチャー政党から全国政党へ!第二創業期を迎えた日本維新の会が目指す未来とは?
議員歴わずか2年半、40歳の若さで幹事長に就任した藤田文武が「日本大改革プラン」を実現すべく、会社員と経営者で培った経験とベンチャー魂で永田町の常識をぶち破る!

日本はデジタル先進国になれるのか?

著者:牧島かれん
発行:2023年2月20日
出版社:日経BP
【出版社サイトより】日本のデジタル化は遅れている――。よく言われるこの言葉、では何が課題で、どこと比べて劣っているのか? 明確に答えられる人は少ないはず。諸外国の現状を網羅し、データやエビデンスに基づいた分析から分かった意外な真実を、第2代デジタル大臣を務めた牧島かれんが語り尽くします。

どうする、野党!?

著者:直諫の会
発行:2023年9月15日
出版社:幻冬舎
【出版社サイトより】これは、直諫の会としての決意表明です。古い永田町・メディアの常識や、与野党の不毛な対立、数多くの課題が先送りされる政治が続き、若者に希望ある未来は見通せません。
もはや待ったなし。いよいよ直諫の会が政権をとりにいきます!

思宗紀 つながる高知の物語

著者:大石宗
発行:2023年2月23日
出版社:リーブル出版
【出版社サイトより】高知の歴史を紐解き、未来へつむぐ。過去の知られざる高知の歴史に加え、18年にわたる地方政治最前線での 実体験、GReeeeNに協力してもらった「みんなでよさこいプロジェクト」やコロナ禍での「高知家食で応援プロジェクト」など自身のエピソードも 交えた秘話が満載!

社会の変え方

著者:泉房穂
発行:2023年1月31日
出版社:ライツ社
【出版社サイトより】本書に泉さんが綴ったのは、明石市民が選んだ未来にどんなことが起こったのか。示してくれたのは、「政治を変えることができたら、私たちの生活は変わる」という事実です。
明石市民が感じている政治への希望を全国のみなさんにお届けできたらと思っています。そして、明石市の現実が全国どこのまちにとっても、あたりまえのことになればと願っています。

吉村洋文の言葉101

著者:結城豊弘
発行:2023年4月10日
出版社:ワニブックス
【出版社サイトより】「コロナ対策で全国を牽引した吉村氏の手腕と徹底した情報公開の姿勢。会議や意思決定過程の全てをあからさまにし、市民に知ってもらう手法。そしてマスコミの質問に対して、時間制限をせず、質問が無くなるまで、全てに答え続ける吉村氏のオープンなスタイルを僕は支持したい。今後、どんな力強い言葉で、我々の心を揺り動かし、鷲掴みにしていくのか。目が離せないのも確かだ」(著者より)

「伴睦二世」の戦後史

著者:丹羽文生
発行:2023年9月20日
出版社:振学出版
【出版社サイトより】元自民党副総裁・大野伴睦の後継者として衆参両議院議員、労働大臣、運輸大臣を務めた四男・明と、夫亡き後に議席を預かったその妻・つや子。二人の政治人生を振り返ることは、戦後日本政治史をたどることと重なり合う(本書「はじめに」より)。
「伴睦二世」としての重荷を背負いつつ政治家人生を全うした、大野明・つや子夫妻の生涯の記録。

壁を壊した男 1993年の小沢一郎

著者:城本勝
発行:2023年7月26日
出版社:小学館
【出版社サイトより】1993年は、日本の政治史において最も激動の年であった。「東京佐川急便事件」に端を発した「政治とカネ」の問題や自民党の竹下派を中心とする派閥争い。バブルがはじけ始めた経済への対応。混迷する政治に世論の不信感は大いに高まっていた。世界からはベルリンの壁とソ連の崩壊、東西冷戦の終結という“外圧”も押し寄せていた。そんな激動の波は、永田町にいた一人の男を突き動した。

世界を動かした名演説

著者:池上彰/パトリック・ハーラン
発行:2023年10月10日
出版社:筑摩書房
【出版社サイトより】名演説は時代や歴史、社会問題や政治運動を色濃く記録した縮図(サムネール)だ!
現代史の学びなおしに欠かせない教養としての名スピーチを最強タッグの解説で味わい尽くす。

独立のすすめ 福沢諭吉演説集

編者:小川原正道
発行:2023年1月11日
出版社:講談社学術文庫
【出版社サイトより】speechを「演説」と訳したのは福沢だった。そして福沢自身、抜きん出た名演説家だった。
著作で見せるのとはひと味違う、福沢のライブ感溢れる言葉が、時代を超えて日本人の心を撃つ!今日における福沢の思想史的再検討をリードする編者が、残されている速記録や原稿から「名演説」を厳選し、わかりやすい解説を付して編集した、画期的演説集。

ウクライナ・ダイアリー 不屈の民の記録

著者:古川英治
発行:2023年8月23日
出版社:KADOKAWA
【出版社サイトより】ウクライナ人の妻を持つ日本人ジャーナリスト。人々が戦い続ける理由とは

第一章 恐怖の10日間/第二章 独りぼっちの侵攻前夜/第三章 ブチャの衝撃/第四章 私の記憶/第五章 コサックを探して/第六章 民の記憶/第七章 パラレルワールド/第八章 ネーションの目覚め

イスラエル

著者:ダニエル・ソカッチ/鬼沢忍(訳)
発行:2023年2月25日
出版社:NHK出版
【出版社サイトより】「知らない」ではすまされない、世界が注視する“この国”を正しく知るための入門書。国際社会の一員として生きていくために、日本人が知っておくべきことが、この一冊に凝縮されている。争いを拡大させているのは、私たちの無知、無関心かもしれない。

ウクライナ戦争

著者:小泉悠
発行:2022年12月10日
出版社:筑摩書房
【出版社サイトより】大戦争は決して歴史の彼方になど過ぎ去っていなかった、というのが今回の戦争の教えるところであろう。テクノロジーの進化や社会の変化によって闘争の方法は様々に「拡張」していく。
だが、それは大規模な軍隊同士の暴力闘争という、最も古典的な闘争形態が消えて無くなることを意味していたわけではなかった。(本文より)

現代戦略論 大国間競争時代の安全保障

著者:高橋杉雄
発行:2023年1月15日
出版社:並木書房
【出版社サイトより】戦略は「優先順位の芸術」であり、日本が持つ比較優位を活かすかたちで傾斜的にリソースを配分していく指針でなければならない。
本書では「大国間競争の時代」においてなお現状維持を実現するための防衛戦略として、ネットアセスメントや将来戦に関するシナリオプランニングを踏まえ、「統合海洋縦深防衛戦略」を提唱した。〈「おわりに」より〉

相馬雪香特別賞(50音順)

相馬雪香特別賞
パレスチナ 特別増補版(ジョー・サッコ/小野耕世

女は「おかしい!」を我慢できない

著者:円より子
発行:2023年9月16日
出版社:CAPエンタイテイメント
【出版社フェイスブックより】女性が議員になる過程も、男性のヘンテコな妨害に負けずに政治をやるのも本当に大変ですね。
この書籍は、そんな女性が政治と格闘した30年の奮闘の記録でもあり、これから政治家を目指す女性への勇気と解決策を示してくれると思います。政治に興味がある女性にぜひ読んで欲しい一冊です。

データが導く「失われた時代」からの脱出

著者:長野智子
発行:2023年10月20日
出版社:河出書房新社
【出版社サイトより】停滞が続く日本の中で今、大きな変化の兆しがあらわれはじめている。数々のデータや企業、政治、メディアへの取材からわかった、日本に眠る大きな可能性とは?
ジェンダーギャップ最低の日本、だからこそ現状突破の余地はある。

パレスチナ 特別増補版

著者:ジョー・サッコ/小野耕世(訳)
発行:2023年1月20日
出版社:いそっぷ社
【出版社サイトより】パレスチナで起きている苛酷な現実を「正確に、かつやさしく」白日の下にさらしたとして国際的な評価を受けた本書。新たに著者のサッコ自身が取材当時の日記やメモ、イラスト、写真などを紹介しながら、マンガに込めた思いを包み隠さず吐露した30頁分を増補しました。パレスチナ問題に発言を続けた思想家サイードが「このうえなく独創的な、政治的かつ美的な作品」と絶賛したコミック・ジャーナリズムの真髄が味わえる一冊です。

なぜかいじめに巻き込まれる子どもたち

著者:川上敬二郎
発行:2023年12月4日
出版社:ポプラ社
【出版社サイトより】小中高校で認知されたいじめの件数、心身に重大な被害が生じるなどの疑いが認定された「いじめの重大事態」の件数、過去最多(2022年度)。いじめの原因は、スマホ依存、ブラック部活、教員のブラック勤務、偏る食事習慣……だった?
“いじめが始まる前に防ぐ方法”を、20年以上にわたりいじめ問題を取材し続けるTBS記者が徹底ルポ。

2023年の選考および授賞理由について

尾崎財団の書籍顕彰事業「咢堂ブックオブザイヤー2023」。2014年の創設から10回目となる本年は、「憲政の父」と呼ばれた咢堂(がくどう)・尾崎行雄にちなんだ7部門を基準に、対象期間(前年11月25日~今年の11月24日)に出版された書籍に注目。今なお続くロシアのウクライナ侵攻やイスラエルとパレスチナの戦闘、そして一層求められる「政治のあるべき姿」など国内外の課題を考えるうえで活発な議論や思索に資することを基準に、不偏不党の立場で選ばれました。
決定日の12月24日は、尾崎行雄の誕生日(1858年、安政5)でもあります。

総合部門の北尾吉孝氏『人間学のすすめ』は、わが国の為政者に求められる要素として「経営の視点」、そして胆力を養う上で必要不可欠な「人間学」、双方の入門として対象期間中もっともすぐれた書籍であるとの意見が相次ぎました。とりわけ同書の165頁「政治家のレベルは、国民のレベルを指す」は、為政者と有権者いずれの立場でも大いに刮目すべき項であり、書籍のテーマが当財団の理念と合致している点も高く評価されました。

国政部門には、青山繁晴・参議院議員の『戦 TELL-ALL BOOK』、小川淳也・衆議院議員の『日本改革原案2050』、藤田文武・衆議院議員の『40代政党COO 日本大改革に挑む』、牧島かれん・衆議院議員の『日本はデジタル先進国になれるのか?』、直諫の会の『どうする、野党!?』がそれぞれ選出されました。
『戦 TELL-ALL BOOK』は、著者の代表作『ぼくらの哲学』の増補という位置づけです。ほぼ全章が細部まで吟味されており、「いわば書籍における大吟醸であり、とりわけ沖縄を巡る課題は同県民のみならず全国民が広く共有すべきテーマであるという」意見が上がりました。
『日本改革原案2050』も同じく著者の代表作『日本改革原案』の単なる復刊に留まらず、いま読んでも新鮮である普遍性が支持を集めました。中でも269頁以降の主張は昨今の世界情勢に対する提言としても秀逸であり、尾崎行雄が唱えた「世界連邦」との共通点をあげた選者もいました。両書に共通するのは「思想、あるいは言論の錬磨」であり、言葉を武器に戦う政治家ならではと評価されました。
『40代政党COO 日本大改革に挑む』は総合部門大賞とも共通する「経営の視点」で政治を捉えるスタイルが評価を集めました。特に第二章「政党を経営する」の全般、あるいは第四章の「父の教え」の項は、選者の間でも大いに共感が広がりました。
『日本はデジタル先進国になれるのか?』は、こども家庭庁と並ぶ新たな省庁・テジタル庁を率いる著者の最新書籍です。わが国のDX(テジタル・トランスフォーメーション)の成否を占ううえでも、また理解を深めるためにも格好の書と支持を集めました。歴代大臣との鼎談も興味深く、まさに同庁の「進路」を示す一冊です。
『どうする、野党!?』は、立憲民主党の有志が「これまで」の現状に甘んじることなく「これから」を見据えての闊達な議論を活写した点が評価されました。限られた紙面ながらも各共著者の主張や持論は密度が濃く、今後の活躍を期待する意見も相次ぎました。

地方・自治体部門は、それぞれ背負ってきたバックグラウンドと真剣に向き合う3氏にまつわる著作がそれぞれ高く評価されました。
大石宗氏の『思宗紀』は、自由民権運動発祥の地・高知県で県議会議員として活躍する著者の大著です。圧巻の全544頁に郷土史や自分史が凝縮された、実に高知愛あふれる一冊です。頁を彩る随筆の数々には中野正剛や原敬など憲政史を彩る面々も登場し、様々な読み方ができるという声もありました。
泉房穂氏の『社会の変え方』は、著者の明石市長12年の軌跡であると同時に、その原点や「おわりに」など、著者自身の生き方そのものが胸を打つ一冊であるという声が相次ぎました。本年は著者にとって多作の年でもありましたが、その中でも「私は、この一冊を推す」といちばん支持を集めたのが本書でした。書籍カバーに隠された「真の表紙」にも賞賛の声が集まりました。
結城豊弘氏の『吉村洋文の言葉101』は、万博の行方で全国都道府県の中で現在もっとも注目を集める知事の語録集です。部門中唯一の第三者による書籍ですが、ジャーナリストの視点からその言行を冷静に見つめる分析や解説は、周囲の狂騒をよそに吉村知事の本質を正確に捉えようとする点が高く評価されました。

選挙部門には丹羽文生氏の『「伴睦二世」の戦後史』、城本勝氏の『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』が選出されました。
『「伴睦二世」の戦後史』は大衆政治家・大野伴睦の息子夫妻である明・つや子両氏を軸に展開する戦後の政治史です。とかく世襲というとネガティブな文脈で語られることが多い昨今、すべての世襲が必ずしも忌むべきものではなく「志の承継」としての側面もあることを同書は提示します。また大野明・衆議院議員が難民問題にも熱心に取り組んでいたエピソードなどは、尾崎三女・相馬雪香のライフワークと重なる部分もあり選考会議でも大いに湧きました。
『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』は1993年に始まった小選挙区制をテーマにした平成政治の裏面史であり、熾烈な権力闘争が生み出すダイナミズムは小選挙区の是非を考える上で格好のテキストという意見が相次ぎました。前述の『伴睦二世~』と併せ読むことで戦後から現在にいたる政治史をほぼ網羅することができ、わが国の選挙制度を考えるうえでもぜひ読み比べていただきたい二冊です。

演説部門には池上彰氏とパトリック・ハーラン氏の『世界を動かした名演説』、小川原正道氏の『独立のすすめ 福沢諭吉演説集』が選出されました。
『世界を動かした名演説』は世界各国の指導者による古今東西の名演説と、それらへの対談解説の形で味わうことができる、「一粒で二度、三度おいしい」一冊です。
古くは英国・チャーチル首相やわが国の昭和天皇にドイツ・ヴァイツゼッカー大統領、また近年ではウクライナ・ゼレンスキー大統領やニュージーランド・アーダーン首相、ドイツ・メルケル首相など、当財団としても昨年のブックオブザイヤー演説部門に連なるチョイスに注目が集まりました。
『独立のすすめ 福沢諭吉演説集』は、わが国の演説の始祖と呼んでも過言ではない福沢諭吉の演説や思想が凝縮された一冊です。尾崎行雄と犬養毅の「憲政二柱」にも多大な影響を与えた福沢の言葉の数々は、演説とは単なる技巧や弁舌でなく「確固たる芯」が欠かせないという本質を味わうことができます。

メディア部門には古川英治氏の『ウクライナ・ダイアリー』、ダニエル・ソカッチ氏の『イスラエル』、の2冊が選ばれました。
『ウクライナ・ダイアリー』は政治指導者や兵士でなく、あくまでも「ウクライナ国民」の目線を追いかけた記録として、また当事者としてロシアの侵攻に直面した著者の渾身の記録です。全編の中でも251頁の「早く帰りたい」の項は特に胸を打ち、著者はジャーナリストである前に「愛すべき地と人をもつ、一人の人間である」。そのことが書籍を通じて伝わってきます。
『イスラエル』は、ウクライナと並んで世界中の注目を集めるイスラエルにまつわる問題を、歴史や文化など様々な切り口から捉える格好の書籍として選ばれました。単に本年の出版であるのみならず、この「咢堂ブックオブザイヤー」創設以前まで振り返っても、同国が抱える問題の理解を深める上で、これ以上の書籍は望めないという意見もありました。

外交・安全保障部門は、当財団主宰「咢堂塾」のカリキュラムでも特に注力している分野ですが、本年は小泉悠氏の『ウクライナ戦争』、高橋杉雄氏の『現代戦略論』がそれぞれ選ばれました。
『ウクライナ戦争』は、わが国におけるウクライナ戦争への関心を大いに喚起した一冊として、もっとも早期から注目してきた書籍です。同書の「おわりに」では我が国の安全保障戦略のあり方についても疑問を投げかけていますが、一連の戦争を報じるメディアが少なくなった今こそ、私たちが関心を持ち続けるために必要な一冊であると改めて感じます。
『現代戦略論』は、まさに前述の小泉氏が投げかけた課題に呼応する一冊です。わが国の安全保障のあり方を単なる理想論でなく、四つのシナリオなどで実際にわが国が取りうる選択肢を提示するなど、極めて現実的な戦略論として高く評価されました。選者の中には「衆議院の安全保障委員会、参議院の外交防衛委員会でそれぞれ必読書にしてほしい」という声もありました。

また、各部門以外でも特筆するべきと認められた書籍には当財団の副会長を長らく務めた尾崎三女・相馬雪香の名を冠し、「相馬雪香特別賞」として広範囲なジャンルより選出、ここに称えることと致しました。

円より子氏の『女は「おかしい!」を我慢できない』は、著者が現在も主宰する「女性のための政治スクール」の挑戦の歴史であると同時に、小選挙区制の裏面史でもある点が注目を集めました。選挙部門『壁を壊した男』と同じ時代が描かれており、同スクールがわが国の政治における女性参画に大きな役割を果たしてきたことを改めて感じさせてくれます。

長野智子氏の『データが導く「失われた時代」からの脱出』もまた、わが国のジェンダーギャップに一石を投じる一冊です。女性の活躍がわが国にとって必要不可欠かつ有益であることの裏づけが豊富なデータとともに提示され、選考では「相馬さんが健在であったならば、本書を“いの一番”に挙げたはず」という意見もありました。

『パレスチナ』は全授賞作中唯一の漫画書籍ですが、イスラエルの側からだけでは決して見えてこない「パレスチナ側の視点」で両国間の問題が語られ、相馬雪香が生涯にわたって注力した難民問題にも関連することから選ばれました。イスラエルとパレスチナにまつわる問題は「双方の視点に立ち、そして双方を思いやる」ことが必要不可欠であることを同書は教えてくれます。

川上敬二郎氏の『なぜかいじめに巻き込まれる子どもたち』は、長年にわたり同問題をジャーナリストの立場で追い続けてきた著者の最新刊です。同書にはいじめ発生のメカニズムや現状と課題、これからの予防対策など、もっとも新しい省庁である「こども家庭庁」にとっても大いに注目すべき提言が収められています。本書の発行は12月4日と選考対象の期間外ではありますが、「相馬さんならばきっと、来年まで待つことを決して“よし”とするまい」そうした意見が相次ぎ、本年の授賞を決定いたしました。


2020年から猛威をふるった新型コロナウイルスが5類に移行し、明るい兆しが見えてきたかに思われた2023年ですが、一向に出口が見えないウクライナとロシア、そして10月にはハマスによるイスラエルへの攻撃が始まり、またわが国の周辺でも北朝鮮によるミサイル威嚇など、暗い思いが拭う事のできない一年でありました。そうした状況下、わが国の政治不信はいっそう根深いものとなり、今回の選考は例年にないほど困難をきわめるものでした。
それでも私たち尾崎財団は、輿論に資するすぐれた書籍を「咢堂ブックオブザイヤー2023」に選定し、著者はじめ出版に携わった関係者、出版社の皆様に対し、敬意と感謝を込めてここに讃える次第です。
またこのたびの発表をご覧の皆様におかれましても、ぜひとも政治の中心地・永田町1丁目1番地1号※ で選ばれた各書の魅力に触れ、希望を失うことなく2024年を迎える一助にいただけることを願ってやみません。



 以上文責・高橋大輔(尾崎行雄記念財団研究員)


※現在は改築のため、1丁目8番1号に代替移転中