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尾崎財団が選んだ「今年の本」。いずれも財団書庫(咢堂文庫)でお読み頂けます。

咢堂ブックオブザイヤー2019

当財団では2014年より、憲政および国政・地方自治や選挙などに関するすぐれた書籍を顕彰する「ブックオブザイヤー」を制定し、今年で6回目になります。
選考には以下の4つの基準を設けています。

1.2019年の著作であること
2.スタッフおよび選者が実際に自費購入し、購入者の視点で推薦できる書籍であること
3.政治全般(国政および地方自治、選挙や演説など)において、すぐれた著作であること
4.その他、上記の該当に関わらず、授賞にふさわしいと判断されたもの

 本年は以下の作品に賞を贈る運びとなりました。
 2019年の選考および授賞理由についてはこちらをクリックください。

 PRESS RELEASE「咢堂ブックオザイヤー2019の発表について」武田翔 県政レポート

大賞(部門別/順不同)

平成記

平成記

著者:小川榮太郎
発行:2019年5月23日
出版社:青林堂
【出版社サイトより】昭和の終焉から、先帝の御譲位、新天皇の践祚までを鮮やかに描く、平成史のスタンダード巨編。小川榮太郎渾身の500枚一挙書下し 天皇皇后の和歌に始まり、政治経済文化国際の各ジャンルを、1年ごとに混然と語り一気に読ませる!自分史を書き込む年表付き。

ぼくらの哲学2

ぼくらの哲学2 不安ノ解体

著者:青山繁晴
発行:2019年4月7日
出版社:飛鳥新社
【出版社サイトより】伝説の人気連載が、"120ページ超"の書き下ろし原稿を追加し、ついに書籍化! 民間人としてインテリジェンス、安全保障の最前線で活躍していた著者が、なぜ参議院議員選挙への出馬を決意したのか。圧倒的な票数で当選したあと、国会の内部でみてきた日本の実態とは。そしてわたしたち日本人は、いま、どう生きるべきなのか。わが国を覆う「不安」を「解体」し、未来に希望を与える一冊!

国会という茶番劇

国会という茶番劇

著者:足立康史
発行:2019年9月10日
出版社:ワニブックス
【出版社サイトより】今こそ、万年与党と万年野党による「新55年体制」と「茶番政治」に終止符を‼ 
憲法改正、安全保障政策、消費増税凍結、大阪都構想の実現、NHK改革、そして皇室の在り方まで――〝国会の暴言王〟こと足立康史議員が、アホバカ議員たちによる永田町のさるしばいを断罪し、タブーなき〝令和の政治改革〟をド真面目に提言する。

実行力

実行力

著者:橋下徹
発行:2019年5月29日
出版社:PHP研究所
【出版社サイトより】38歳で大阪府知事に就任し、数々の改革を成し遂げてきた橋下徹氏。大阪府庁1万人・大阪市役所3万8千人の職員、組織、そして国をも動かして結果を出してきた秘訣とは何か。
年上の部下や並いる反対派をいかにして説得・掌握し、大阪の大改革へと舵を切ったのか、その手腕を初めて明かす。

なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?

なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?

著者:加藤年紀
発行:2019年8月19日
出版社:学陽書房
【出版社サイトより】「Heroes of Local Government(HOLG.jp)」編集長が伝える、自治のトップランナーたちの仕事の流儀!「出る杭は打たれる」と言われる公務員の世界にありながら、業務分野の地味・派手を問わず、自らの信念を貫き、役所の中で成果を上げてきた公務員たちがいる。苦難にぶつかりながらも、「常識・前例・慣習」を乗り越えた10人の実践を通じて、公務員が行動・挑戦し、組織の中でやりたいことを実現するヒントを伝える。

無敗の男 中村喜四郎 全告白

無敗の男 中村喜四郎 全告白

著者:常井健一
発行:2019年12月16日
出版社:文藝春秋
【出版社サイトより】伝説の男がついにすべてを語った!戦後生まれ初の閣僚で、自民党最盛期の建設族のプリンス、そして田中角栄最後の愛弟子であった男は、ゼネコン汚職で逮捕され、刑務所へと送られる。
しかし、そこから新たな伝説が始まった。検察の取調べに完全黙秘を貫き、検事をして「男の中の男」と言わしめた男は、出所後も当選を重ね、初当選から現在まで14戦無敗。そして、安倍一強の政界を揺るがす仕掛けを次々と繰り出している。 中村喜四郎 25年の沈黙を破って語られた驚愕の事実とは。

令和ニッポン改造論

令和ニッポン改造論

著者:玉木雄一郎
発行:2019年7月15日
出版社:毎日新聞出版
【出版社サイトより】自民党にはできない改革案。野党代表にして、自称「土着の保守政治家」が、斬新な憲法改正論、家計第一の経済政策、「子ども国債」による教育改革、国防としての農業......などを新時代に本気で問う。
これは、未来をつくるための本です。

無敗の男 中村喜四郎 全告白

無敗の男 中村喜四郎 全告白

著者:常井健一
発行:2019年12月16日
出版社:文藝春秋
【編集者より】とにかく面白い評伝です。自民党最盛期の政治の裏の裏が率直に語られるとともに、選挙に勝つとはどういうことなのか、非常に示唆に富む1冊です。何より、中村喜四郎という男がすごい。劇画の主人公ですよ、彼は。しかも、今も現役で、小泉純一郎や宿敵・小沢一郎と安倍打倒を仕掛けているところに、生々しい政治家の生き様があります。

#あなたを幸せにしたいんだ

#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎とれいわ新選組

著者:山本太郎
発行:2019年12月18日
出版社:集英社
【出版社サイトより】
本書では、「総理になる」と公言して憚らない山本代表が党立ち上げの経緯、常識破りの選挙戦の舞台裏、そして注目の「次なる一手」を綴る。さらに、重度障害者、創価学会員、元東京電力社員、女性装の東大教授、元コンビニオーナー、環境保護NGO職員、元外資系為替ディーラー、シングルマザーで元派遣労働者と、いずれも「今の日本が抱える課題の当事者」として参院選に立候補した“れいわメンバー”全員のベストスピーチとロングインタビューを収録。彼らの戦いはこれからが本番だ。この一冊で“れいわ旋風”のすべてがわかる!

「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない面々

「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々

著者:安積明子
発行:2019年4月11日
出版社:青林堂
【出版社サイトより】あづみん砲炸裂!!官房長官会見で“偽りの「報道の自由」"を叫び、“「国民の代表」を騙る"大手新聞記者らの欺瞞を暴く!

2050年のメディア

2050年のメディア

著者:下山進
発行:2019年10月25日
出版社:文藝春秋
【出版社サイトより】読売、日経、ヤフー、波乱のメディア三国志!紙かデジタルか? 技術革新かスクープか?
「読売はこのままでは持たんぞ」2018年正月の読売賀詞交換会。いつも「経営は磐石」と太鼓判を押す渡邉恒雄がその年は違った。「紙の王国」に大きな危機が訪れていた。

特別賞(順不同)

特別賞
政治の絵本[新版](たかまつなな)
教育格差(松岡亮二)

秘録・自民党政務調査会

秘録・自民党政務調査会

著者:田村重信
発行:2019年6月13日
出版社:講談社
【出版社サイトより】
本邦初公開!自民党政務調査会の「ヌシ」と呼ばれた男が、16人の総理大臣の間近で見た40年間の永田町の事件の裏側を、身命を賭して初めて語る!
総理大臣や大物政治家たちが、選挙戦の舞台裏や海外出張中に見せる素顔は、今まで誰も語ってこなかった。「まさか、あのプリンスが!?」「やはり、あの悪人面は!!」の連続で、息もつかせぬ小説のような展開!

13歳からの「くにまもり」

13歳からの「くにまもり」

著者:倉山満
発行:2019年10月1日
出版社:扶桑社
【出版社サイトより】これから日本は、どうなるのだろう。ぼんやりとした不安を抱いている人は、多いと思います。本書は、「日本を守りたい!」と、強い気持ちを抱いている人のために書きました。もし、「今の自分には何の力も無い」と思っていても構いません。おそらく、そんな力は誰にもありません。私は「これをやれば日本は滅びない」とか、「これが正解だ。言うことを聞いて、その通りにすればバラ色の未来が待っている」などと甘い言葉を撒き散らすつもりはありません。私は本気で日本を守りたいと思っているので、皆さんと一緒に考えたいのです。日本を守る方法を。(「はじめに」より)

政治の絵本[新版]

政治の絵本[新版]

著者:たかまつなな
発行:2019年7月30日
出版社:弘文堂
【出版社サイトより】「おバカは選挙に行かない方がいいの?」と子どもに聞かれたら、なんと答えますか?
「分かりやすい!」「面白い!」「生徒が飽きない」と大好評の笑下村塾の政治の授業を書籍化しました。
本書はすでに3万人以上の高校生が受講した「笑える!政治教育ショー」を完全書籍化し、より学びを深くできるコラムなどを加えた主権者教育教材です。全頁に人気挿画家による美麗カラーイラストを入れ、文章は総ルビで小学生から楽しく読めます。

教育格差

教育格差

著者:松岡亮二
発行:2019年7月10日
出版社:筑摩書房
【出版社サイトより】出身家庭と地域という本人にはどうしようもない初期条件によって子供の最終学歴は異なり、それは収入・職業・健康など様々な格差の基盤となる。つまり日本は、「生まれ」で人生の選択肢・可能性が大きく制限される「緩やかな身分社会」なのだ。本書は、戦後から現在までの動向、就学前〜高校までの各教育段階、国際比較と、教育格差の実態を圧倒的なデータ量で検証。その上で、すべての人が自分の可能性を活かせる社会をつくるために、採るべき現実的な対策を提案する。

増補版 大平正芳 理念と外交

増補版 大平正芳 理念と外交

著者:服部龍二
発行:2019年10月10日
出版社:文藝春秋
【出版社サイトより】
没後四十年。「鈍牛」と揶揄された男の素顔と哲学
日韓・日中関係、「核密約」と安全保障、消費税導入……。いまに続く諸問題に先鞭をつけるも志半ばで倒れた、哲人宰相の足跡を描く。

2019年の選考および授賞理由について


尾崎財団が主宰する書籍顕彰事業「咢堂ブックオブザイヤー2019」。2014年の創設から6回目となる令和初の選考は、当財団が不偏不党の立場で注目した政治分野の著作を中心とするほか、わが国の課題を考えるにあたって活発な議論や解決に資することを基準に行われました。

4月1日に新元号「令和」が発表され、翌月には新たな時代が始まりました。一方で、私たちにとっての「平成の宿題」は片づいただろうか、真の意味で「仕舞う」ことができただろうか。一層の混迷を見せる政治ならびに数々の社会問題と、私たちはどう向かい合うべきか。そうした観点から本年のブックオブザイヤーは6つの分野ごとに優れた書籍に注目し、その中でも特に優れた作品に賞を贈ることと致しました。

総合部門の「平成記」は、1989年からの31年間を年ごとに区切り、国内外の主要なできごとや世相を物語風に叙述した、総ページ数493の大作です。国内においては改造を含めた歴代内閣の変遷が綴られ、また海外情勢や社会問題、文化などの世相が高いバランスでまとめ上げられた点が評価を集めました。文芸評論家ならではの視点で各年を代表する文学作品や言論・思想などの潮流についても触れられている点がユニークであるとの意見も出ました。
各年譜には「自分史」欄も設けられており、個人史を書き添えられるなどの配慮が平成を締めくくるにふさわしい一冊として選ばれました。

国政部門ですが、青山繁晴・参議院議員の「ぼくらの哲学2 不安ノ解体」は、第一線の作家でもある著者が国政に挑んだ理由(源流の章~第5章)、現在の活動(第6章~8章)、そして今後目指すもの(第9章~大海の章)について圧倒的な筆力で余すところなく描かれ、わが国喫緊の課題と直結している点が賛同を集めました。出版化にあたっては言論誌の連載に大幅な加筆と推敲が重ねられ、「プロの流儀」を感じる選者も少なくありませんでした。
足立康史・衆議院議員の「国会という茶番劇」は2017年、2018年に続き三度目の授賞です。「多選の是非」については選考会議でも賛否が分かれた一方、過去作にも増して政策に対する方法論が充実すると同時に、先の国会でも禍根を残した「国対政治の功罪」を早期から指摘していた点が評価を集めました。また著者の原点(なぜ、国会議員を志したのか)が初めて描かれた点も評価されました。著者は所属政党を与党でも野党でもない「ゆ党」と呼ぶことでも知られていますが、ある選者からは「与野党双方に諭す“諭”の字を当てても良いのでは」そういった声も聞かれました。

地方部門の対象は地方創生や行政、地方議会など多岐にわたりますが、本年は地方行政が選考の焦点となりました。「実行力」は、知事や市長を歴任し、地域政党を立ち上げた著者のリーダーシップ、その真髄と呼べる一冊です。ある選者は「すべての首長必読」と激賞しました。太字個所の一つひとつはまさに著者の経験に裏打ちされたトップリーダーの心得であり、中でも164ページに書かれた潔さは、多くの選者が唸らされました。
もう一冊の「なぜ、彼らは「お役所仕事」を変えられたのか?」は、全国各地の自治体で力強く活躍する職員にスポットを当てるサイト「holg.jp」編集長が注目した10名の素顔に迫ります。尾崎財団の人材育成塾・咢堂塾(がくどうじゅく)には地方議会の議員も多く集いますが、所属自治体の事例も採り上げられ「〇〇さんのところの人だよね」という声も聞かれました。地方の活性化は住民が主役であると同時に、首長や職員の奮闘も大事な両輪であることを、今回の地方部門大賞は再認識させてくれました。

選挙部門の「無敗の男 中村喜四郎 全告白」は現在歴代3位の当選回数(14回)を数える中村喜四郎・衆議院議員の素顔に迫った本格評伝です。「選挙の鬼」の異名をもつ同議員の選挙に懸ける姿勢や気迫は当財団で語り伝えられる咢堂・尾崎行雄との共通点も多く、気鋭の著者によって描かれた実像は選考メンバーにとっても少なからぬ衝撃でありました。一方で決して息苦しいものではなく、主人公と家族の絆、そして候補者でなく「有権者が主役である」という選挙の本義を活写した点が高い評価を受けました。
玉木雄一郎・衆議院議員の「令和ニッポン改造論」は副題に「選挙に不利でも言いたいマニフェスト」とあるように、参議院選挙を前に刊行された点から選挙部門での授賞となりました。環境問題においては田中正造・衆議院議員が、また農業政策や国家観においては郷里・香川出身の大平正芳総理など、「憲政の先達」への敬慕が共感を集めました。同時に、日米地位協定の見直しなどの現実的な政策主張にも注目が集まりました。一方である選者からは「本に書かれた理念やビジョンを評価するものの、所属議員やサポーターでいかに共有するかが今後の課題。画餅で終わって欲しくない」という意見も出ました。

演説部門の「無敗の男 中村喜四郎 全告白」は選挙部門でも大賞に選ばれ、ブックオブザイヤー初の2部門同時授賞となりました。同書では主人公の演説を「バナナの叩き売り」と評し、準備の様子は「入試直前の受験生と変わらない」としています。「巧言令色」型の政治家が多い中、その逆をいく「剛毅朴訥」タイプとも言えるでしょう。後援会の国会見学では「尾崎行雄の銅像が立つ平屋建ての施設の会議室で中村の講話に聞き入る(同書110頁)」など、憲政記念館でのエピソードについて触れている点も選者の共感を集めました。中には「励ます会/もりたてる会もいいけど、中村議員の使い方こそが本来あるべき姿」といった声も上がりました。
#あなたを幸せにしたいんだ 山本太郎とれいわ新選組」は今回の授賞作の中でも一番の最近作(12月18日)ですが、発売前から「この本を読まずに、すべての賞を決めることはできない」そういった根強い声がありました。今年の参議院選挙ではもっとも注目を集めた団体であり、その熱源を確かめたいという意見も聞かれました。書籍では選挙に挑んだ10名の候補者全員の演説とインタビューが収録、外交や安全保障、消費税廃止の財源などへの言及で課題が残るものの、いずれも「熱誠」と呼べるものでした。書籍収録の各演説には動画リンクのQRコードが掲載され、「ネット選挙の戦略としても面白い」という声も多く聞かれました。

昨年のメディア部門では「フェイクニュース」の台頭に対する「ファクトチェック」に注目しましたが、昨年から今年にかけての政治とメディアを考える上で見逃せないのが、官房長官会見でのやり取りでした。とかく角度をつけがちな論調が目立つ一方で、組織に属しないフリーランスの立場で冷静かつ建設的な視点で書かれた「「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」は、報道の自由という普遍的なテーマを考える上で貴重な一石を投じた点が高く評価されました。巻末で著者が綴った静かな怒りは、尾崎行雄が主張し続けた「誰が正しいかでなく、何が正しいか」にも通じるとの意見が寄せられました。
また、平成という時代を通してメディア問題を考える上で切り離せないのが、インターネットの普及です。新世代の伝達手段は新聞や雑誌などの紙媒体のみならず、テレビやラジオの電波メディアも劇的に、時には痛みを伴って変えることになりました。「2050年のメディア」は、間もなく訪れる2020年を基点に、過去の30年と今後の30年を考える上で多くの示唆を与えてくれる、あるいはどんなにAIが進歩しても、「最後に記事の核心へ到達できるのは、記者の足と筆しかない」との意見が上がりました。


また、各部門以外でも特筆するべきと認められた書籍には特別賞を贈り称えることと致しました。

秘録・自民党政務調査会」は、党の政務調査会調査役、審査役を歴任した著者の40年にわたるキャリアの全てが凝縮されています。「政権を預かることのリアリズム」に裏打ちされたエピソードの数々は、いずれも永田町の裏面史として興味ぶかいものであると同時に、政党の実力は議員だけで測れるものではないことを明らかにした一冊でもあります。

13歳からの「くにまもり」」は、憲政史家として活躍する著者が、さまざまな「この国の課題」に真っ向から対峙し、その原因と解決策を論理的かつ具体的に提示した点が高い評価を集めました。第五章(日本を守りたければ政治のことを知ろう)は圧巻で、とりわけ第十節に書かれたメッセージは尾崎財団が目指すものと同じであるという意見が相次ぎました。

政治の絵本[新版]」は、若者を中心とした主権者教育に力を注ぎ続けている著者にとって初の著作、その改訂版です。イラストを多用するとともに分かりやすさを徹底追求した点は、大学生の選者からも高い評価を得ました。悪い政治家を見抜く「人狼ゲーム」などの工夫は、すべての有権者必読です。

様々な社会問題を扱った書籍では、経済格差や貧困などの分野に注目が集まりました。その中でも「教育格差」は、単なる問題提起に留まらず、膨大な調査に裏づけされた論拠の提示と、課題解決に向けての具体的なロードマップまで言及している点が多くの賛同を得ました。巻末に描かれた「15歳の私」との対話は、党派や行政、民間などの垣根を超えて広く関心を寄せていただきたい。そう思わせるに充分なものでした。

増補版 大平正芳 理念と外交」は、今年で没後40年を迎えた哲人宰相の評伝です。「楕円の哲学」や「永遠の今」、そして「政治とは、明日枯れる花にも水をやることだ」など語り継がれる言葉の数々は今もなお不朽であり、現代の政治が失ってしまったものを改めて問いかける、大平総理に関する評伝でも最新かつ最良の一冊です。

今回のノミネート作品はいずれも例年以上の力作・良作がひしめき、選考委員会にとっても実に悩ましく、ときには苦しいものでありました。そうした中で選び抜かれた各作品は、老若男女を問わず一人でも多くの方に読まれて欲しい、皆様にとっても最高の書籍となることを、あるひとつの確信を抱いてお奨めいたします。
私たち尾崎行雄記念財団は、自信を持って各授賞作品を「咢堂ブックオブザイヤー2019」に選定し、著者ならびに出版に携わった関係者、そして出版社の皆様を讃える次第です。
令和という新たな時代の幕開けにふさわしい一冊として、各授賞作には是非とも注目いただき、その魅力に触れて頂けることを願ってやみません。


以上文責・高橋大輔(尾崎行雄記念財団研究員・IT統括ディレクター)