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尾崎財団が選んだ「今年の本」。いずれも財団書庫(咢堂文庫)でお読み頂けます。

咢堂ブックオブザイヤー2024


当財団では2014年より、憲政および国政・地方自治や選挙などに関するすぐれた書籍を顕彰する「ブックオブザイヤー」を制定し、今年で11回目になります。
選考には以下の4つの基準を設けています。

1.原則当該年の著作であること(対象期間:2023年12月~2024年11月)
2.スタッフおよび選者が自費購入し、不偏不党の立場で推薦できる書籍であること
3.政治全般(国政および地方自治、選挙や演説など)において、すぐれた著作であること
4.上記のほか選考年の社会情勢を鑑み、授賞にふさわしいと当財団が特に認めたもの

 本年は以下の作品に賞を贈る運びとなりました。
 2024年の選考および授賞理由についてはこちらをクリックください。

 PRESS RELEASE「咢堂ブックオザイヤー2024の発表について」武田翔 県政レポート

大賞(各部門順不同)

国力研究 
日本列島を、強く豊かに。

著者:高市早苗[編著]他
発行:2024年9月1日
出版社:産経新聞出版
【出版社サイトより】
“10人の有識者と共に日本の進むべき道を指し示す”
国会議員と有識者の政策研究会「『日本のチカラ』研究会」をリアルな質疑応答も含めて完全収録。「経済力」「外交力」「情報力」「防衛力」「技術力」「人材力」などの「国力」がテーマで、主宰者・高市早苗が総合的な国力強化の方向性を示す3章分を書き下ろしています。

マンガでたのしく!
国会議員という仕事

著者:赤松健
発行:2024年6月10日
出版社:ちくまプリマー新書
【出版社サイトより】
マンガ家から国会議員に転身して二年。議員の働き方や法律ができる過程など、政治の世界に飛び込んではじめてわかったことをマンガ「国会にっき」とともに解説!

保守政治家
わが政策、わが天命

著者:石破茂、倉重篤郎(編)
発行:2024年8月7日
出版:講談社
【出版社サイトより】
緊急出版! 新総理・石破茂の最新刊
総裁選では各議員への挨拶周りに自ら持参した入魂の一冊。戦後保守の可能性を一身に宿した政治家の全人生と政治ビジョンとは何か?全国民必読の一冊、緊急出版!

世界をリードする日本へ

著者:小林鷹之
発行:2024年9月27日
出版:PHP研究所
【出版社サイトより】
総裁選に挑む40代の首相候補が緊急発刊! 派閥の論理では日本は生き残れない。自民党に突如、現れたホープが政権構想を記す。

日本の経済安全保障
国家国民を守る黄金律

著者:高市早苗
発行:2024年7月15日
出版社:飛鳥新社
【出版社サイトより】
現職の大臣がここまで書いた覚悟の一冊!増税なんて100%必要ない! 日本のとてつもない底力!全ビジネスマン必読!日本企業は世界で大活躍できる!チャイナリスクの実態を正しく理解せよ!

一片冰心 谷垣禎一回顧録

著者:谷垣禎一、水内茂幸、豊田真由美
発行:2024年6月10日
出版社:扶桑社
【出版社サイトより】
政治資金と派閥問題、渦巻く政治不信、戦争と国際秩序の機能不全……いま、時代の岐路に立つ日本の現代社会。野党時代の自民党総裁・谷垣禎一が語る「政治の原点」とは──2009年の政権転落から約3年での政権復帰──いかにして、谷垣総裁は自民党を立て直し、国民からの信頼を取り戻したのか。今まさに振り返るべき「谷垣イズム」の源流を探る貴重な証言集。

マンガでわかる!地方議会のリアル

著者:伊藤隆志、野村憲一
発行:2023年9月30日
出版社:学陽書房
【出版社サイトより】
地方議会とは何か、どのように運営され、どんなやりとりが行われているのかがマンガでわかる! 答弁調整、質問、議案の修正、採決、委員会審査、決算審査、請願、政務活動費など、議会のしくみ・運営の実際をリアルに描いた一冊!

『声を上げれば政治は動く』

著者:かばさわ洋平
発行:2024年9月3日
出版社:Galaxy Books
【出版社サイトより】声を上げれば政治は動く! 政治に無関心であった、かばさわ洋平は3.11福島第一原子力発電所事故を契機に、子どもたちを守るために声を上げた。(中略)さまざまな住民要求を市民とともに前へ進める活動と、その活動の「見える化」の取り組みは全国からも注目を集めている。SNSのフォロワー2万人を超える、日本共産党の若き千葉市議会議員のこれまでの奮闘を綴る。

覚悟の論理

著者:石丸伸二
発行:2024年5月24日
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
【出版社サイトより】この4年間、石丸市長は何を思い、何を考えてきたのか。なぜ、様々な問題にこれほどまでに強く対峙できるのか。実際のエピソードや石丸市長ならではの戦略的思考を通し、覚悟が「決まっていく」仕組みがわかる1冊。自分の責任を果たしたい、対立をおそれずに動きたい、何かを変えたい。そんなとき、本書で市長の思考回路を知ることでやみくもな情熱や衝動とは違う、たしかな勇気が湧いてくるはず。

シン・日本列島改造論

著者:石丸伸二
発行:2024年7月26日
出版社:フローラル出版
【出版社サイトより】立てよ都民!東京を動かそう!何のバックボーンもない青年が、ファーストペンギンとして立ち上がり、女帝と互角に戦い、圧倒的支持を得て堂々2位に!「沈みゆく日本」をその危機から救うため、「国民主権」という当たり前の世界を取り戻す。彼を通すと、そんな世界が見えるはず。今までの政治に失望・絶望していた人ほど、彼の姿を見て、彼の話を聞いてみて欲しい。さあ、政治を楽しもう!

つなぐ力 「この国を、 前へ。」 進めるために

著者:黒崎祐一
発行:2024年10月9日
出版社:コマブックス
【出版社サイトより】
この「前へ」進むための力、そして「つなぐ力」を、日本の未来のために、いかに最大限に活かすか――。
「頑張った人が報われる、日本」を実現するために、現場に足を運び、強い信念と実行力で積極的に政治活動に取り組んでいる著者の熱い想いの詰まった一冊。

戦時下の政治家は国民に何を語ったか

著者:保阪正康
発行:2024年11月10日
出版社:NHK出版新書
【出版社サイトより】昭和の幕開けから戦時体制へ、歴史が最悪のシナリオに向かう過程で、時の首相は、各党の指導者は、国民に何をどのように語ったのか。1928年に初の普通選挙に臨む田中義一から、1945年の終戦時に内閣を率いた鈴木貫太郎まで。昭和史研究の泰斗・保阪正康が、NHKに残された戦前・戦中の政治家24人の演説の肉声を活字にして、その一つ一つに解説を付しながら、太平洋戦争までの実態を明らかにする、類を見ない一冊!

世界のトップリーダーが
話す1分前までに行っていること

編者:矢野香
発行:2024年8月5日
出版社:PHP研究所
【出版社サイトより】心理学専門の学者で、政治家や経営者などのエグゼクティブをクライアントに持つスピーチコンサルタントでもある著者が、人前で実力以上のプレゼンができるようになる心理テクニックを解説する!ここぞという本番で「自分の場」を作るため、話すことが決まったその日から本番後までを順を追って説明。「一生が決まる瞬間」を必ず成功させるあなたに生まれ変わります。

詭弁社会――日本を蝕む“怪物”の正体

著者:山埼雅弘
発行:2024年3月10日
出版社:祥伝社新書
【出版社サイトより】詭弁は、「ウソ」と同じく人間社会の理性や良識を食い散らかして壊してしまう怪物であり、政治の世界のみならず、言論界や我々一般社会をも静かに蝕んでいる。本書は、近年の政治における詭弁をさまざまな角度から分析・検証し、〝感染〟しないための免疫をつけるもの。大手メディアが権力との戦いを放棄し、大量のウソと詭弁が溢れる時代にあって、必読の一冊である。

政治家は 悪人くらいで ちょうどいい!

著者:乾正人
発行:2024年10月10日
出版社:ワニブックス
【出版社サイトより】永田町35年の不適切宣言!政治家が〇〇な時代に国民までバカになってどうする!
産経新聞上席論説委員・名コラムニストが送る、自民党総裁選から、善人政治家、悪党政治家列伝、そして最新情勢までの抱腹絶倒のぶったぎり政治評論本!

「“右翼”雑誌」の舞台裏

著者:梶原麻衣子
発行:2024年11月25日
出版社:星海社新書
【出版社サイトより】現代日本を代表する二大保守雑誌『Hanada』『WiLL』の歴史は2004年、『週刊文春』黄金期の編集長・花田紀凱の『WiLL』創刊によって始まった。第二次安倍政権の有力な「応援団」として存在感を示し、政界にまで影響力を与える異例の雑誌はいかにして作られたのか。そして、順風満帆に見える雑誌の限界はどこにあるのか。創刊直後から13年あまり編集部に所属した元編集者が、自らの体験に基づき舞台裏を明かすとともに、両誌が右派言論に、ひいては日本の言論界に与えた功罪を分析する。

シン・防災論

著者:鈴木哲夫
発行:2024年5月31日
出版社:日刊現代/講談社
【出版社サイトより】
もはや災害は常軌を逸するレベルだ。それなのに、政府対応は「人災」ですらある。過去の教訓を生かせ。
能登半島地震の悲劇を徹底取材し、日本災害史をたどり直し、防災に捧げた先人に訊きつつ書き下ろす、著者のライフワーク。

冷戦後の日本外交

著者:高村正彦、兼原信克、川島真、竹中治堅、細谷雄一
発行:2024年6月25日
出版社:新潮選書
【出版社サイトより】「外交の失敗は一国を滅ぼす」。1980年の初当選以来、その信条と共に政治活動を続けてきた希代の外政家・高村正彦。その軌跡は、国民世論と国際貢献の狭間で苦闘してきた冷戦後日本の姿と重なる。自衛隊の海外派遣、強大化する中国との関係、アジアの民主化、集団的自衛権の一部容認まで、日本外交の舞台裏を語る。

「言の葉」にのせたメッセージ

著者:垂秀夫
発行:2024年5月23日
出版社:日本僑報社
【出版社サイトより】
歴史的視点に立ち現在の日中関係に警鐘を鳴らす!―日中交流に関わるすべての人々へ。
本書は駐中国日本国特命全権大使(第16代)を務めた垂秀夫氏が、大使在任期間に中国や日本で行った主要なスピーチ等を集めたものであり、垂氏の外交官人生の締めくくりである。

想像を超えた難事の日々

著者:仲本光一
発行:2023年11月20日
出版社:世論時報社
【出版社サイトより】
はじめに
一章 北朝鮮拉致問題に関わる
二章 9・11ニューヨークテロ事件
   ジャムズネット設立(邦人医療支援NPO)
三章 外務省医務官への転身、発展途上国での活動
四章 米国カナダと先進国で経験した医療制度の違い
五章 わたしの子供時代、青春時代
六章 東京勤務と「えひめ丸」海難事故
七章 東京勤務を経て岩手へ
八章 若い世代の人たちへ

14歳からの非戦入門

著者:伊勢﨑賢治
発行:2024年6月1日
出版社:ビジネス社
【出版社サイトより】
本書は、近年とくに顕わになった「安全保障化」と、日本人の大半が気づいていない「緩衝国家(Buffer Stateバッファーステート)」という2つのキーワードを軸に、世界と日本の危機をどう克服するかのヒントを提示したいと思い、急きょ書き上げたものである。

日本人が知らない台湾有事

著者:小川和久
発行:2024年1月20日
出版社:文春新書
【出版社サイトより】本書では「台湾有事」を巡る数々の疑問に、軍事アナリスト・小川和久氏がQ&A方式で分かりやすく解答。中国の人民解放軍の〝戦争力〟を解剖したうえで、今後の日本の安全保障戦略についても考える。
第1章 台湾侵攻シミュレーションを検証する
第2章 日米の報告書が描く人民解放軍
第3章 人民解放軍の実力を解剖する
第4章 日本はどう備えるか
第5章 中国の野望をいかに挫くか

日本のブランドを作った男 渋沢栄一「論語と算盤」恕

著者:田村重信
発行:2024年8月10日
出版社:三冬社
【出版社サイトより】
・渋沢栄一の好きな言葉は、 『恕』=「己の欲せざる所、人に施すことなかれ」/・渋沢栄一を知るには/・渋沢栄一の生い立ち/・渋沢栄一が「幕府パリ使節団」に参加/・明治維新、渋沢は政府の役人に/・「量入為出」/・「論語で一生を貫いてみせる」/・信なくば立たず/・近代資本主義の父、日本の信用・「日本ブランド」を確立/・社会福祉と教育の援助に尽力/・蔣介石とのエピソード/・シンガポールの発展と儒教教育/・「政は正なり」

50代上等!理不尽なことは
「週刊少年ジャンプ」から学んだ

著者:常見陽平
発行:2022年11月15日
出版社:平凡社新書
【出版社サイトより】50代って思ったよりも楽しいかも!? 体力と気力はまだまだ十分だし、懐事情も少し余裕が出てきた。仕事はひと段落したし、好きなことに全力投球したい。人生の折り返し地点である10年間をどう生きるべきか?「憂鬱」「希望」「処世術」そして「提言」の切り口で50代をポジティブに生きるためのヒントが詰まった一冊。従来の50代本のイメージを覆す、新しい50代本。

読めば心がシャキっとする13歳からの生き方の教科書

著者:藤尾秀昭(監修)
発行:2024年3月25日
出版社:致知出版社
【出版社サイトより】人の心は触れるものによって変わります。特に多感な若い年代に、どんな人に出会い、どんな本を読み、どのような感動を受けたか。その体験こそが、その後の人生を左右すると言っても過言ではありません。
本書を通じて、生身の人間の生きた体験談――「人間学」の教えに触れ、勇ましく社会へ雄飛していってくれる若い世代の多からんことを願ってやみません。
月刊『致知』主幹 藤尾秀昭

2024年の選考および授賞理由について

尾崎財団の書籍顕彰事業「咢堂ブックオブザイヤー2024」。2014年の創設から11回目となる本年は、「憲政の父」と呼ばれた咢堂(がくどう)・尾崎行雄にちなんだ8部門ごとに、対象期間(前年12月1日~今年の11月末日)に出版された書籍に注目。内憂においては今なお政治不信が続き、外患に到ってはロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナの戦闘に終結の兆しが未だ見えず、また直近でも韓国の情勢不安など混迷極まりない一年となりました。そうした情勢下でも活発な議論や思索に資することを基準に、各書籍が不偏不党の立場で選ばれました。
決定日の12月24日は、尾崎行雄の誕生日(1858年、安政5)でもあります。

総合部門には高市早苗氏他の『国力研究』が選ばれました。同書は政・官・学各界の知見を結集してわが国の現状を分析し、今後の在り方に対する提言や議論が凝縮された点が幅広い支持を集めました。副題にもある「日本列島を、強く豊かに。」はまさに、不偏不党の立場で多くの国民が共有すべき価値観であります。また各章テーマに対する疑問も質疑応答の再録で整理されるなど臨場感に富み、「総合部門は、この一冊以外にない」との意見がもっとも多く上がりました。


国政部門には、赤松健・参議院議員の『マンガでたのしく!国会議員という仕事』、石破茂・衆議院議員の『保守政治家 わが政策、わが天命』、小林鷹之・衆議院議員の『世界をリードする日本へ』、高市早苗・衆議院議員の『日本の経済安全保障』、谷垣禎一氏他の『一片冰心』が選出されました。
『マンガでたのしく!国会議員という仕事』は、漫画家出身という著者来歴のとおり、国会議員は普段どんな仕事をしているのか、また政党や議会の仕組み等が分かり易く描かれ、漫画のみならず文章を通じても明瞭であった点が評価されました。特に米国視察の報告は視点・内容とも充実し「議員の海外視察は、こうあるべき」という辛口の選評も出るほどでした。
『保守政治家』は著者が現在の内閣総理大臣に選出される前の最新書籍です。編者という「伴走者」との二人三脚によって、過去の咢堂ブックオブザイヤー受賞『政策至上主義』『異論正論』の二冊以上に著者の来歴や信念が掘り下げられた点が支持を集めました。選評の中には「書籍に記された真っ直ぐなスタンスを、ぜひ国会でも堂々と示していただけたら」というエールも聞かれました。
『世界をリードする日本へ』は前著『解説「宇宙資源法」』に続く著者の2作目であると同時に、初の単著でもあります。特定分野の政策論に特化した前作からスケールアップし、各章のキーワードとなるわが国の在るべき姿(右往左往しない、他国を牽引、自律する国、など)も選者の共感を集めました。また「将来の総裁選再挑戦にも、ぜひ期待したい」という声も多く聞かれました。
『日本の経済安全保障』は総合部門大賞にも選ばれた著者の単著であり、前作『美しく、強く、成長する国へ。』のスケールアップ版でもあります。総合部門『国力研究』がわが国のカルテであるならば、本書はわが国の処方箋に他ならない、そう論じて譲らない選者も出るほどでした。またある選者からは「武力のみならず、経済もまた安全保障の重要テーマと再認識できた」といった意見も寄せられました。
『一片冰心』は前著『谷垣禎一の興味津々』以来じつに10年ぶりの新著です。党総裁や国会議員のしがらみを離れた立場で語られる大局観の数々は後進に対する叱咤激励であると同時に、党派を超えてすべての議会人が一致点を見出すことのできる終章などが高い評価を得ました。かつての盟友でもある大島理森・前衆議院議長や、小林鷹之・衆議院議員との対談も読みごたえがあり、好評連載「話の肖像画」を一冊の記録として結実させた水内氏・豊田氏の手腕に対する賛意の声もありました。

地方・自治体部門は毎年、地方行政や議会、地域創生など広範囲にわたるため、もっとも選者の意見が分かれる部門でもあります。今回は地方議会に焦点を当て、伊藤隆志氏/野村憲一氏の『マンガでわかる!地方議会のリアル』、かばさわ洋平氏の『声を上げれば政治は動く』が選ばれました。
『マンガでわかる!地方議会のリアル』は自治体における二元代表制を支える議会事務局にスポットを当て、その実務を分かり易く解説した好著として議員経験をもつ選者などから支持を得ました。一般的な行政職からはイメージすることが難しい職務ながら、今後着任するであろう実務者や、新たに政治参加を目指す議員志望者にも理解を深めていただきたい、そんな議会事務局の姿が分かり易く描かれています。
『声を上げれば政治は動く』は現職市議である著者の、立志から現在に至るまでの10年間の記録です。政治における発信は細分化や分業化が進み、行き過ぎたプロの手法が忌避される昨今「商業臭のする洗練PRより、素朴でも本人性が実感できるスタイルの発信が好きだ」という意見もありました。128頁に刻まれた「伝える努力なくして、躍進はありません」の一文は、まさに偽りなしです。

選挙部門には石丸伸二氏の『覚悟の論理』ならびに『シン・日本列島改造論』、黒崎祐一氏の『つなぐ力「この国を、前へ。」進めるために』が選出されました。

『覚悟の論理』『シン・日本列島改造論』はそれぞれ個別の出版社より刊行されていますが、実質的な上下巻として両作品の同時授賞が決まりました。今夏の東京都知事選挙で一躍注目を集めた著者ですが、その実像や前職を辞しての出馬動機、今後めざすものについてはどちらか1冊では読み解けません。併読することで初めて、著者の覚悟に対する解像度が高まります。ある選者からは「議会との対立も時として辞さなかった、東京市長時代の尾崎行雄を彷彿させる」という読後感も寄せられました。
『つなぐ力』は港区議を2期務め、先の衆議院総選挙に挑んだ著者初の一冊です。同書ではこれまでの生い立ちや、現在も振興に深く携わっているラグビー、そして総選挙に挑む決意などが記されています。修正や削除が容易なインターネット発信と異なり「無かったことにする」ことが許されないのが、書籍刊行という情報発信です。当選考委員会が調べた限り、先の総選挙で「自著という旗幟」を掲げて挑戦したのは著者が唯一であり、「出来ることはすべてやる」。そうした姿勢を何よりも称えたいという声がありました。

演説部門には保阪正康氏の『戦時下の政治家は国民に何を語ったか』、矢野香氏の『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』、山崎雅弘氏の『詭弁社会―日本を蝕む“怪物”の正体』が選出されました。
『戦時下の政治家は国民に何を語ったか』は、普通選挙の施行から敗戦までの間に発せられた政治家のべ29名の演説に注目。歴史の中における政治家と、その言論が持つ意味を問いかける一冊です。濱口雄幸や尾崎行雄、斎藤隆夫等のいわゆる雄弁家に留まらず、米内光政や小磯国昭、鈴木貫太郎など軍部出身者の言論にも注目している点が高く評価されました。また末尾の「政治家の最大の役割五カ条」は特に見事であり、現代の政治家にも真剣に学んでいただきたいという意見も上がりました。
『世界のトップリーダーが話す1分前までに行っていること』は、研究者であり「スパルタ・スピーチコンサルタント」の異名も持つ著者の最新作です。「上手く話したい」「成功させたい」ための成功戦略に留まらず「そもそも何のため、そして誰のために話すのか」。頁をめくるたび、読み手に本質を問いかけて来る対話性が多くの支持を集めました。「上達は遥か先だけど、少なくとも人前で話すことが好きになった」という声もありました。
『詭弁社会』は前述の二作と異なり、演説やスピーチでななく、政治家の言葉が発せられた意図の裏側やそこに潜む罠、詭弁に対する感覚が知らぬ間に鈍磨することへの警鐘が込められた一冊です。決して胸のすく読後感ではなく、重いながらも「この機会に読めて良かった」という声もありました。他にも「詭弁に対する沈黙は、結果として黙認になる。そうした社会風潮の危うさを感じた」という意見もありました。

メディア部門には乾正人氏の『政治家は悪人くらいでちょうどいい!』、梶原麻衣子氏の『「“右翼”雑誌」の舞台裏』、鈴木哲夫氏の『シン・防災論』が選出されました。
『政治家は悪人くらいでちょうどいい!』は物騒な書名ながらも、根底にあるのは「沈香も焚かず屁もひらず」を良しとする風潮に対する痛烈な皮肉であり、歴代宰相の指南役・安岡正篤師の「君子豪傑論」を連想し痛快と評する意見がありました。また本書の論は決して政治家だけに向けられたものではなく、むしろ有権者側の度量が問われているのだという現実を投げかけます。政治家が小粒になったのではない、むしろ有権者がそう至らしめた。ならば私たちはどうするのかと考えさせられる、直言の政治論です。

『「“右翼”雑誌」の舞台裏』は、論壇誌の第一線で編集者として活躍してきた著者の初書籍です。その主戦場はいわゆる右派をベースとしながらも、著者の政治スタンスは当財団のモットー「不偏不党」にも通ずると喝采した選者が出たほどでした。またメディアの裏側を垣間見る点でも本書は純粋に面白く、中でも花田紀凱氏へのインタビューは文字通り「文字が“活字”になる」現場の息づかいが追体験できる珠玉の対談でもあります。表舞台である論壇誌の支持いかんに関わらず、著者の屋号・ミモリモ(=言論の右も左も越えて行け)の精神で広く読まれてほしい一冊です。
『シン・防災論』は長年わが国の震災現場に足を運び報じてきた著者の、ライフワーク集大成といえる一冊です。震災そのものは自然災害ながらも、事後の対処を「人災」と断じる姿勢はメディアの責任と矜持を示してくれるものであり、選者の中には「地を這う取材とは、まさに本書のことだ」とする意見もありました。また同書には過去の震災対応の中心人物の証言も数多く収められ、震災史の記録としても貴重です。

外交・安全保障部門は昨年まで同一部門でしたが、昨今の情勢を鑑みて今回より外交部門と安全保障部門でそれぞれ単独の部門といたしました。外交部門には高村正彦、兼原信克、川島真、竹中治堅、細谷雄一各氏の『冷戦後の日本外交』、垂秀夫氏の『「言の葉」にのせたメッセージ』、仲本光一氏の『想像を超えた難事の日々』が選出されました。
『冷戦後の日本外交』は、わが国の外交を最前線で支えてきた元外務大臣の著者が、第一線の実務者ならびに研究者と冷戦後の外交を総覧。その深い洞察や次代への教訓に富む点が高く評価されました。取りわけ第一章のタイトルと共に書籍帯を飾る「外交の失敗は一国を滅ぼす」の一文は緊張著しい現在の外交環境を紐解くうえでも重要で、総合部門を最後まで争った一冊でもあります。
『「言の葉」にのせたメッセージ』は、目下わが国にとって最も身近であると同時に容易ならざる国家・中国で第16代特命全権大使を務めた著者の初書作です。書籍に刻まれた言の葉の数々は、同国に対する理解のみならず、隣人として主張するべきところを明らかにした点が選者の支持を集めました。各章の扉を飾る写真の数々も素晴らしく、またある選者からは田中首相と大平外相による「千本桜」の挿話に触れ「かつて尾崎行雄が米国に贈った二千本の桜を重ね、大きな感慨を覚えた」という声もありました。
『想像を超えた難事の日々』は、長年にわたり外務医務官として活躍してきた仲本光一氏(元・外務省診療所長)の回想録です。著者は9.11直後のニューヨークや自衛隊派遣時のイラク、そしてハワイの「えひめ丸事件」や小泉純一郎総理の歴史的訪朝など、世界を揺るがした外交歴史の現場に数多く立ち会ってきました。とかく外交は首脳や閣僚など一部のキーパーソンのみで動くものと思われがちですが、著者が一所懸命の思いで経験してきた「現場の最前線」こそが、外交の実際においては極めて重要であることを再認識させてくれます。

安全保障部門には伊勢﨑賢治氏の『14歳からの非戦入門』、小川和久氏の『日本人が知らない台湾有事』がそれぞれ選出されました。
『14歳からの非戦入門』は長年にわたり世界各地で紛争解決の実務を担ってきた著者の最新刊で、目下世界喫緊の課題であるパレスチナ・ガザやウクライナでの戦争をいかに止めるか、またわが国がいかに当事者として眼前の課題に向き合うべきかを分かり易く提示してくれます。世界における日本の立ち位置を緩衝国家に満たない「緩衝材国家」とする論には愕然とさせられつつも、「自覚する所からすべては始まる」とする結びには落胆の中に一縷の希望を見出すことができます。
『日本人が知らない台湾有事』は、日本初の軍事アナリストとして知られる著者が書名のテーマを冷静沈着かつ精緻に分析。台湾有事を取り巻く疑問の数々に対し、論拠とともにQ&A形式で解き明かしてくれます。巷間のさまざまな脅威論に対しても一石を投ずるもので、選者の中には「方向違いの備えは無益であるのみならず、わが国をミスリードすることにも繋がりかねない」として、外交部門『冷戦後の日本外交』との共通点を挙げる意見も見られました。


また、各部門以外でも特筆するべきと認められた書籍には、長らく財団副会長を務めた尾崎三女・相馬雪香の名を冠し「相馬雪香特別賞」として広範囲なジャンルより選出、ここに称えることと致しました。

田村重信氏の『日本のブランドをつくった男 渋沢栄一「論語と算盤」恕』は、新紙幣の肖像として「わが国の顔」となった渋沢栄一の生涯や理念を分かりやすく紹介した好著です。渋沢をめぐっては事蹟を採り上げた書籍が多い中、もっとも端的に表した点や渋沢の背骨となった『論語と算盤』に関する洞察など、類書との違いが評価されました。文庫サイズで手に取りやすく、紙幣をお持ちの方は一読をお奨めします。

常見陽平氏の『50代上等!理不尽なことは「週刊少年ジャンプ」から学んだ』はポップな書名と裏腹に、人生百年時代を考える上で興味深い一冊として注目が集まりました。尾崎行雄は享年95歳、また相馬雪香も享年96歳と、いずれも人生100年の体現者でありました。同書は50代のみならず、今後折り返しの節目を迎える方や既に折り返した方、どの世代にも多くの気づきや希望を与えてくれます。選者の中には、尾崎行雄の座右の銘「人生の本舞台は常に将来に在り」そのものという意見も上がりました。

『毎週1話、読めば心がシャキッとする13歳からの生き方の教科書』は昨年より新たに始まった「咢堂塾・次世代ブログラム」に相応しい1冊として高い評価と支持を集めました。咢堂塾は不偏不党の立場で政治を幅広く学ぶ人材育成塾ですが、次世代プログラムは協賛企業や団体の助成により、未成年が保護者と共に受講費免除で参加できます。13歳からを対象とした同書は副読本としてもふさわしく、また保護者でなく一社会人の立場でも「心と背筋がシャキっとする」などの意見が寄せられました。

当財団による書籍顕彰事業も10年が経過し、毎年末の発表においては各方面からさまざまな反響やコメントをいただくようになりました。時には厳しいご意見も頂戴し、選考委員会の中でも決定をめぐっては「選び漏れは無いだろうか」「まだ読めていない書籍があるのではないか」、そう逡巡する場面が年々増えてきたと改めて実感いたします。
それでも私たち尾崎財団は、すべてのノミネート書籍を自弁で購入※1 し読み込んだ自負をもって各授賞作品を「咢堂ブックオブザイヤー2024」に選定し、著者はじめ出版に携わった関係者、出版社の皆様に対し、敬意と感謝を込めてここに讃える次第です。
また本発表をご覧の皆様におかれましても、ぜひとも政治の中心地・永田町1丁目1番地1号※2 で選ばれた各書の魅力に触れ、新たな年を迎える一助にいただけることを願ってやみません。



 以上文責・高橋大輔(尾崎行雄記念財団主任研究員)


※1:献本ノミネートや購入費用の予算計上・精算は一切なく、一読者としての購入が前提。     ※2:現在は改築のため、1丁目8番1号に代替移転中。