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尾崎財団が選んだ「今年の本」。いずれも財団書庫(咢堂文庫)でお読み頂けます。

咢堂ブックオブザイヤー2025


当財団では2014年より、憲政および国政・地方自治や選挙などに関するすぐれた書籍を顕彰する「ブックオブザイヤー」を制定し、今年で12回目になります。
選考には以下の4つの基準を設けています。

1.原則当該年の著作であること(対象期間:2024年12月中旬~2025年12月上旬)
2.スタッフおよび選者が自費購入し、不偏不党の立場で推薦できる書籍であること
3.政治全般(国政および地方自治、選挙や演説など)において、すぐれた著作であること
4.上記のほか選考年の社会情勢を鑑み、授賞にふさわしいと当財団が特に認めたもの

 本年は以下の作品に賞を贈る運びとなりました。
 2025年の選考および授賞理由についてはこちらをクリックください。

 PRESS RELEASE「咢堂ブックオザイヤー2025の発表について」武田翔 県政レポート

大賞(各部門順不同)

総合
(藤尾秀昭 監修)
国政
子どもは誰のものか?(嘉田由紀子)
女性議員は「変な女」なのか(野田聖子、辻元清美)
地方・自治体
選挙
法が招いた政治不信(郷原信郎)
SNS選挙という罠(物江潤)
メディア
記者は天国に行けない(清武英利)
エモさと報道(西田亮介)
外交
(加茂具樹、廣瀬陽子、森聡、渡辺将人、鶴岡路人、土屋大洋、藤田元信、古谷知之、神保謙)
安全保障
自衛隊に告ぐ(香田洋二)
ウクライナ企業の死闘(松原実穂子)

1日1話、読めば心が熱くなる
365人の人間学の教科書 

著者:藤尾秀昭(監修)
発行:2025年11月25日
出版社:致知出版社
【出版社サイトより】
日本全国40万人の読者に、感動と勇気を与えたベストセラーの最新刊。
弊社が 50年近く探究してきた「人間学(=人間性を高める学び)」をテーマに、365人のプロフェッショナルの強烈な体験談から、 時代、業種、年齢、立場を越えて通底する「仕事と人生の法則」、「幸福に生きるためのヒント」を結晶化させた、全世代に贈る教科書です

1日1話、読めば心が熱くなる
365人の生き方の教科書 

著者:藤尾秀昭(監修)
発行:2022年3月25日
出版社:致知出版社
【出版社サイトより】
人生の達人365人が贈る生き方のバイブルベストセラー待望の続篇、ここに誕生!
1日1頁で読み切れるコンセプトはそのままに、書名の通り、生き方のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に収録。

1日1話、読めば心が熱くなる
365人の仕事の教科書 

著者:藤尾秀昭(監修)
発行:2020年11月25日
出版社:致知出版社
【出版社サイトより】
40余年の歴史を持つ『致知』の1万本以上に及ぶ人物インタビューの中から、編集長と編集部が総力をあげてセレクトした傑作選。
企画構想から制作まで丸1年半。深い思いが詰まった永久保存版です。

「民のかまど」をあたためる
~経世済民論~

著者:落合貴之
発行:2025年5月31日
出版社:あけび書房
【出版社サイトより】
生まれも育ちも世田谷の庶民政治家が日本の未来を語る。「今の経済政策はしっかりその観点から打たれているか。今の政治はこういった「仁政」を行う姿勢であるか。この本で、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。」(「はじめに」より)

子どもは誰のものか?

著者:嘉田由紀子
発行:2025年5月20日
出版:文春新書
【出版社サイトより】
国際的に離婚後の共同親権が認められるなか、なぜ日本では“骨抜き”の共同親権しか実現し得ないのか。全国四〇人超の当事者との対話を通して浮かび上がったのは、行き過ぎたフェミニズムがもたらした社会の歪みだった。「子どもの最善の利益」を第一に考えた、日本の家族の未来を展望する。

菅義偉 官邸の決断

著者:菅義偉
発行:2025年12月2日
出版:ダイヤモンド社
【出版社サイトより】
未知のコロナ対策、無観客開催となった東京五輪、携帯料金値下げ、農協大改革、「黒い雨」訴訟……官房長官として約8年、総理として約1年。菅義偉本人が「官邸で行われた意思決定」の詳細を書き残す。縦割り・慣例主義に阻まれていた政治をいかに変革したか。不確実な時代のいまこそ必読!決断するリーダーのための書

「手取りを増やす政治」が日本を変える 国民とともに

著者:玉木雄一郎、山田厚俊(編)
発行:2025年3月20日
出版社:河出書房新社
【出版社サイトより】
「103万円の壁」「ガソリン暫定税率廃止」ーー若者の声が政治を動かした。国民民主党の玉木雄一郎代表が自身の生い立ちから党誕生秘話、そして政策の核心まで、余すところなく語り尽くす。

18歳になる君へ―政治家という選択

著者:細野豪志
発行:2025年6月30日
出版社:徳間書店
【出版社サイトより】
地盤も看板もカバンもなしで初当選から25年。政治家を志す者、政治の深層を知りたい人のために隠し事なしに書く全ノウハウ。

女性議員は「変な女」なのか

著者:野田聖子、辻元清美
発行:2025年6月7日
出版社:小学館新書
【出版社サイトより】
祖父が国会議員の野田聖子と実家はうどん屋の辻元清美。生まれも育ちも正反対なのに、なぜか仲の良いふたり。
「家に帰っても冷蔵庫は空っぽ(涙)」(辻元)
「いい人がいたら紹介するから」(野田)
などと、本音トークが炸裂!

わたしがいる あなたがいる なんとかなる 「希望のまち」のつくりかた

著者:奥田知志
発行:2025年8月9日
出版社:西日本新聞社
【出版社サイトより】
生きる意味のない“いのち”なんて、あってたまるもんか
困窮者支援のその先へ、誰もが「助けて」と言い合える居場所、「希望のまち」が誕生する

獺祭 経営は八転び八起き

著者:桜井博志
発行:2025年11月21日
出版社:西日本出版社
【出版社サイトより】40年前、桜井博志が山口県の山奥の小さな酒蔵の跡を継いだ時、目の前にあったのは、ジリ貧の売上とやる気を失った社員。負け組の酒蔵という絶望的な状態の中、販路を東京に見出し、純米大吟醸「獺祭」を生み出した。「美味しい酒を造りたい。美味しいと言って飲んでほしい」それだけを追い続けてひた走った「獺祭」は、日本から世界へ、そして宇宙へと天翔けていく――。

法が招いた政治不信

著者:郷原信郎
発行:2025年4月1日
出版社:KADOKAWA
【出版社サイトより】
斎藤兵庫県知事を選挙違反疑惑で告発し注目を集めた弁護士による書き下ろし。
政治家に諦めの気持ちを持ってしまった方、SNS選挙に違和感を感じている方、
検察の捜査に違和感を持っている方にとっては必読の日本社会論。

「AI議員」が誕生する日 SNS選挙が政治を変える

著者:髙橋茂
発行:2025年12月10日
出版社:集英社インターナショナル新書
【出版社サイトより】
選挙とSNSの関係や問題点を解説。「AI議員」は誕生するか、AIを政治にどう生かすべきか……AIと政治の現状も分析。
選挙、そして民主主義に多大な影響を与えるSNSやAIをどう扱うべきか。ネットと選挙の健全な在り方を提示する。

SNS選挙という罠:
自分の頭で考え直すために

著者:物江潤
発行:2025年6月13日
出版社:平凡社新書
【出版社サイトより】
2024年の兵庫県知事選挙では、事前の予想を覆して斎藤元彦氏が再選を果たした。そのとき、SNSでは一体何が起こっていたのか――。
本書では、SNSが選挙にもたらした変化を明らかにし、これからの選挙において有権者一人ひとりが考えるべき課題を問い直す。

記者は天国に行けない
反骨のジャーナリズム戦記

編者:清武英利
発行:2025年8月30日
出版社:文藝春秋
【出版社サイトより】
巨大メディアを牛耳る「独裁者」に立ち向かった男が、恥辱に満ちた抵抗の半生と、特ダネに情熱を注ぐ反骨記者たちの生き様を描く――

持続可能なメディア

著者:下山進
発行:2025年3月30日
出版社:朝日新書
【出版社サイトより】
問題はフジテレビだけではない!
一丁目一番地の問題はメディアの持続可能性がなくなったことにある。
国内外100人以上を徹底取材!
見えた「持続可能なメディアの5条件」とは??

エモさと報道

著者:西田亮介
発行:2025年7月25日
出版社:ゲンロン叢書
【出版社サイトより】
旧弊なメディアに正面から疑問符を突きつけ、激震を引き起こした「エモい記事」論争。苦境にあえぐジャーナリズムを救うべく、大手全国紙に提言を行った著者だったが、返ってきたのは驚くべき反応だった──。著者の書き下ろし論考に加え、江川紹子、大澤聡、大治朋子、武田徹、外山薫、山本章子、東浩紀との対話を通して、この国の報道の未来をタブー無しで考える。話題沸騰の社会学者が切り込んだ、巨大新聞社との戦いの記録。

日中外交秘録
垂秀夫中国大使の闘い

著者:垂秀夫、城山英巳(聞き手・構成)
発行:2025年6月10日
出版社:文藝春秋
【出版社サイトより】
中国共産党内に裏人脈を張り巡らせ、機密情報を誰よりも早く入手し、理不尽な恫喝にも屈しない――異能の外交官が明かす秘話満載の外交秘録!

匿名への情熱

著者:和田純
発行:2024年9月5日
出版社:吉田書店
【出版社サイトより】
「知のサロン」を主宰し、愚直に政治に理念と言力を求め、現実主義の中道保守を貫いた、もうひとつの戦後政治史
第1章 原体験
第2章 「Sオペレーション」の始動
第3章 「第二期Sオペ」の展開
第5章 政治に知識を導入する 他、全19章

ウクライナ危機以後
国際社会の選択と日本

著者:加茂具樹編著、廣瀬陽子、森聡、渡辺将人、鶴岡路人、土屋大洋、藤田元信、古谷知之、神保謙著
発行:2025年8月12日
出版社:東洋経済新報社
【出版社サイトより】
混乱、分断、動揺――世界は新しい秩序を築けるか。ロシア、中国、EU、グローバルサウス、そして、トランプのアメリカ…大国、新興勢力、独裁国家入り乱れ、欲望と思惑が交差する「混迷の世紀」。日本に生き残る道はあるのか。第一線の研究者が国際政治の興亡を鮮やかに読み解く。

自衛隊に告ぐ

著者:香田洋二
発行:2025年8月10日
出版社:中央公論新社
【出版社サイトより】命令一下で動くよう訓練された戦闘組織であるがゆえに、自己批判の力が弱く、陸海空相互に評価することも差し控える自衛官。戦後80年間の平和に浴し、自衛隊は有事に闘えない組織になってはいないか。「これは、誰かが言わなければならないことだ」。元・海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)が危機感と使命感で立ち上がった。自浄作用なき古巣(自衛隊)の劣化を指弾する前代未聞の警告の書。

ウクライナ企業の死闘

著者:松原実穂子
発行:2025年9月8日
出版社:産経新聞出版
【出版社サイトより】
【殺されても、つなぐ】
電力・エネルギー、通信、金融、運輸…
なぜ企業人たちは命をかけて砲撃の中を走るのか。
誰も書かなかった名もなき英雄たちの戦い

CBRNE戦記
平和国家国民の命は軽い

著者:山口芳裕
発行:2025年12月3日
出版社:産経新聞出版
【出版社サイトより】CBRNE(シーバーン。化学兵器、生物兵器、核・放射線兵器、爆発物)についてご存じでしょうか。
高市早苗総理が大臣への指示書でCBRNEテロ対策への対応を挙げておられるように、CBRNEは現時点の主たる脅威の対象と言えます。
本書は、著者がCBRNEを扱った実体験に基づき、平和ボケ国家の実態と空論を告発する異色のノンフィクションです。

相馬雪香特別賞(順不同)

相馬雪香特別賞
(プラン・インターナショナル・ジャパン、村田順子(画))
オマルの日記 ガザの戦火の下で(オマル・ハマド、最所篤子(訳))

日戦争犯罪と闘う
国際刑事裁判所は屈しない

著者:赤根智子
発行:2025年6月20日
出版社:文春新書
【出版社サイトより】第二次世界大戦後にホロコーストに向き合ったニュルンベルク裁判、日本の戦争責任を裁いた東京裁判。二つの軍事法廷裁判にルーツをもち、国際平和秩序を守ろうと奮闘してきた国際刑事裁判所とはいかなる機関か。二つの戦争という異例の事態にどう向き合ったのか。「世界の警察」アメリカが過去のものになりつつある戦後国際秩序の行方とは――。

紛争下を生きる女の子の物語

著者:プラン・インターナショナル・ジャパン/村田順子(画)
発行:2025年11月21日
出版社:Kawaii-winpress
【著者サイトより】
増え続ける紛争。その影響をもっとも受けるのは女の子たちです。
より多くの方にその現実を知っていただくために、本書では、紛争により人生を大きく変えられてしまった女の子の物語を漫画と女の子本人の語りによってお届けします。

気候変動に立ち向かう3人の女の子の物語

著者:プラン・インターナショナル・ジャパン/村田順子(画)
発行:2024年12月14日
出版社:Kawaii-winpress
【著者サイトより】気候変動はこれまでも女の子を取りまいていた問題を顕在化させ、いっそう女の子たちを追い詰めています。
そんな現実を、中高生を中心に幅広い年齢層の方に分かりやすくお伝えするために、プランの活動地域から届いた女の子の実話を元にしたストーリーを“まんが”という形にしてお届けします。

オマルの日記 ガザの戦火の下で

著者:オマル・ハマド/最所篤子(訳)
発行:2025年10月7日
出版社:海と月社
【出版社サイトより】
兄が、眠る前に訊いてきた。「俺たち、生き残れるかな?」
僕はしばらく黙ってから答えた。「無理だろうね」
ガザに住み、文学と詩を愛するパレスチナ人青年が毎日Xに投稿しつづけた、ありのままのガザ。そこに綴られていたのは…「名もなき人々」のひとり、オマル・ハマド氏による悲痛な、しかし時に詩のように繊細で美しい文章は、世界の多くの人の心を動かしています。(編訳者のことばから)

私はリーダーに向いてない
My Leadership Journeys 2021-2025

著者:福岡女子大学(女性リーダーシップセンター、学生支援センター)
発行:2025年3月(2021年より通巻)
発行者:公立大学法人 福岡女子大学
【大学サイトより】他者や社会と出逢うことは、自分と出逢うことでもあります。出逢う、とは、自分の強み、弱さ、大切にしたいことを把握し、みつめなおす=自分とつながっていくこと。すると、他者や社会とどうかかわりたいかが見えてきます。
「リーダーシップ」は、生まれつきのものかじゃない。他者とかかわりながら、織り成していくもの。

2025年の選考および授賞理由について

尾崎財団の書籍顕彰事業「咢堂ブックオブザイヤー2025」。2014年の創設から12回目となる本年は、「憲政の父」と呼ばれた咢堂(がくどう)・尾崎行雄にちなんだ7部門ごとに、対象期間(前年12月中旬~今年の12月上旬)に出版された書籍に注目。国内外の課題に焦点を当て、深く掘り下げた作品に注目し、不偏不党の立場で選ばれました。
決定日の12月24日は、尾崎行雄の誕生日(1858年、安政5)でもあります。

総合部門には、藤尾秀昭氏監修の『1日1話、読めば心が熱くなる365人の人間学の教科書 他2作』が選ばれました。毎日1ページずつ読み進めやすい構成は前作「~働き方の教科書」「~生き方の教科書」に連なるシリーズ最新作であり、甲乙つけがたい珠玉の三冊はいずれも「心が冷めがちな時代だからこそ、じっくり読んで心を燃やすきっかけにしたい」という声が上がりました。同時に「政治家が取り上げられる、そんな日が来ることを願ってやまない」という意見も聞かれました。

国政部門には、落合貴之・衆議院議員の『「民のかまど」をあたためる 経世済民論』、嘉田由紀子・参議院議員の『子どもは誰のものか?』、菅義偉・衆議院議員の『官邸の決断』、玉木雄一郎・衆議院議員の『「手取りを増やす政治」が日本を変える』、細野豪志・衆議院議員の『18歳になる君へ 政治家という選択』、辻元清美・衆議院議員と野田聖子・衆議院議員の『女性議員は「変な女」なのか』が選出されました。

『「民のかまど」をあたためる』は、前作『民政立国論』に続く正統派の政策論書籍であり、特に99頁目「これから求められる政党」の項が選考委員会の注目を集めました。またAIとの向き合い方にも相当の頁が割かれており、政治とAIの在り方を考える上でのフロントランナーとしての期待も寄せられました。

『子どもは誰のものか?』は、わが子を親権者の従属物として捉えることに真っ向から異を唱える一冊です。賛否が両論に分かれる難しいテーマながらも、膨大なフィールドワークに裏打ちされた論拠の数々には首肯する声も多く、また266頁目や268頁目に記された言葉には「ここだ!」と声をあげた選者もおりました。

『官邸の決断』は、第99代内閣総理大臣を務めた著者初の回顧録であり、官房長官時代も通算して憲政史上最長の「官邸の守り人」を務めた舞台裏が興味深いとの支持を集めました。コロナウイルスとの戦いや、2021年の東京オリンピック・パラリンピック、デジタル庁発足や携帯電話料金引き下げ等の政策評価も充実しており、記録としての価値も高く評価されました。

『「手取りを増やす政治」が日本を変える』は著者にとって6年ぶりとなる最新刊であり、所属政党のスローガン「手取りを増やす」を読み解くうえでも外すことができないという声が相次ぎました。また「炎の幹事長」との呼び声の高い榛葉賀津也・参議院議員との対談も熱量が高く「同氏にも賞を贈ることはできないものか」という意見も出たほどでした。

『18歳になる君へ 政治家という選択』は、題名にもあるとおり「誰に読んでほしいのか」が明確であり、若い世代の政治関心を惹起する姿勢に共感が寄せられました。また各章をつなぐ「コラム」には政治家としてのみならず、一個人としての揺らぎや悩みも素朴に綴られている点に対する共感の声も聞かれました。

『女性議員は「変な女」なのか』は、異なる政党に所属しながらも互いの政治スタンスや政策主張を認め合いながら本音でつづった共著です。様々なテーマで意見を交わすスタイルは臨場感にあふれ、中でも「時」に関する対話が注目を集めました。ジャーナリスト・長野智子氏との鼎談も読みごたえがあり、『「手取りを増やす政治」~』と同様に、三人目の著者に挙げてよいのではという声もありました。

地方・自治体部門は毎年、地方行政や議会、地域創生など広範囲にわたるため、もっとも選者の意見が分かれる部門でもあります。今回は議会や行政を離れ、地域創生の観点から奥田知志氏の『わたしがいる あなたがいる なんとかなる』、桜井博志氏の『獺祭 経営は八転び八起き』が選出されました。

『わたしがいる あなたがいる なんとかなる』は、北九州市を舞台に「希望のまち」づくりに奮闘する著者の、思索と社会洞察の記録です。その視点が見つめる対象の数々は楽しいばかりではなく、重いテーマも少なくありません。それでも、多くの人が本書に刻まれたエピソードの数々を知って欲しい、また読まれて欲しいという意見が多く聞かれました。

『獺祭 経営は八転び八起き』は、いまやわが国を代表する日本酒銘柄のひとつとして注目を集める酒造メーカーを率いる著者の、いわば失敗と挑戦の履歴書です。どんなにうまく行かなくても、決してあきらめない姿勢は全国各地の地域産業にとって参考になるものが多く、地方創生の取り組み事例としても多くの気づきを与えてくれます。無論、本を読むことで「獺祭」が一層おいしく味わえることは言うまでもありません。

選挙部門は例年、当該年度の注目をあつめた事象が選書の着眼点になることが近年の特徴です。今年はSNSを主としたネット選挙に注目が集まり、それぞれの専門分野から向き合った力作が選ばれました。

郷原信郎氏の『法が招いた政治不信』は、現在の公職選挙法と政治資金規正法が内包する課題をつまびらかにし、また検察自体が国民の信頼を得るに至っていない現状に対する問題提起が支持を集めました。また単なる問題点の指摘に留まらず「ならば、どうあるのが望ましいか」現実的な提言を示した点も高く評価されました。とりわけ、246頁に記された著者の願いは、ぜひとも広く共有されたい価値観です。

髙橋茂氏の『「AI議員」が誕生する日』は、我が国のネット選挙シーンの最前線を四半世紀にわたり第一線で走り続けてきた実務者としての集大成です。誰よりも長く、そして深く関わり続けてきたからこそ綴れる警鐘の数々、とりわけ188-189頁に刻まれた結言は、前作『マスコミが伝えないネット選挙の真相』から一貫する主張でもあります。「すべての頁は、この結びのための大事な導線である」そう断言した選者も出たほどでした。

物江潤氏の『SNS選挙という罠』は法律やICT技術という専門分野からではなく、批評の観点から「SNS選挙」に対峙する姿勢が選者の共感を集めました。また論を構築するにあたっての典拠とされた引用文献の数々も充実し、「自分の頭で考え直すために」の副題に唸らされたという評が寄せられました。同じテーブルに着き、語り合うかのような穏やかな論調に「リラックスして書籍と向きあうことができた」そんな声も聞かれました。

メディア部門には清武英利氏の『記者は天国に行けない』、下山進氏の『持続可能なメディア』、西田亮介氏の『エモさと報道』が選出されました。

『記者は天国に行けない』は著者の半世紀にわたるジャーナリスト人生の集大成と呼べる一冊で、挿話のひとつひとつが「読まずにはいられない」不思議な引力を持つ全606頁です。記者という仕事は時として「業と矜持のせめぎあい」であることが行間からにじみ出てきます。
また令和の現代において、著者のような「ブン屋魂」を感じさせる存在は、いまや少数派なのかもしれない。本書を彩るエピソードの数々は驚きや興奮をもたらすと同時に、そんな一抹の寂しさを予感させるものでもありました。

『持続可能なメディア』はかつての咢堂ブックオブザイヤー『2050年のメディア』の正統な続編であるのみならず、今後のメディアの行く末にとっての「只一燈」となり得る提言が凝り込まれた点が前作に続き高い評価を受けました。中でも第5章「地域メディアの挑戦」では知の拠点としての公共図書館にもスポットが当てられ、「この一冊は、かならず地方メディアにとって起死回生のヒントになる」そう評する選者も出るほどでした。

『エモさと報道』は、昨今の報道が陥りがちなエピソード型、あるいはナラティブ型の記事風潮に対する警鐘として、「一歩立ち止まって考える」ためのヒントとして支持する声が寄せられました。ともすれば悲観的になりがちなテーマながら、「それでもなお報道とジャーナリズムの可能性に大いに期待している」という著者のあとがきや、「ジャーナリズム再生の道」と題された項には、決して悲観するばかりではないという声も聞かれました。

外交部門には垂秀夫氏の『日中外交秘録』、和田純氏の『匿名への情熱』、加茂具樹氏、廣瀬陽子氏、森聡氏、渡辺将人氏、鶴岡路人氏、土屋大洋氏、藤田元信氏、古谷知之氏、神保謙氏の『ウクライナ危機以後』が選出されました。

『日中外交秘録』は著者二年連続の授賞ですが、1972年の日中国交正常化以来、両国の関係性が混迷を極める現在、もっとも読まれるべきとの意見が相次ぎました。昨今の国際情勢を鑑み、最後まで総合部門を争った一冊でもあります。大使在任時のエピソードも豊富で、とりわけ478頁の「オオヤマザクラ」の挿話には、かつてワシントンに桜を贈った尾崎行雄の姿を重ねる声もありました。また余談ですが、選者の一人は533頁の肖像に共感し、全542頁の長編があっという間だったとの意見もありました。

『匿名への情熱』は、佐藤栄作・元内閣総理大臣の首席秘書官を務めた楠田實氏の本格評伝です。一人の裏方を通じての戦後政治史、そして外交史として高く評価されました。政治の表舞台は首相や閣僚などがクローズアップされる昨今の情勢において、実は主人公のような「縁の下の力持ち」の存在が大きいことを圧倒的な筆力で浮き彫りにします。本書もまた総合部門を争った一冊であり、708頁のボリュームは全賞最大の頁数でもありました。

『ウクライナ危機以後』は、当該危機に関する各分野のエキスパートが開戦から現在までを丹念に追いかけ、薄れつつある関心を促す一助として多くの支持を集めました。わが国は一連危機の直接当事者ではありませんが、だからこそ「何ができるか」を議論し、国際社会に対して示していく必要があります。本書の刊行は前内閣の時代に上梓されましたが、現内閣にもぜひお読みいただきたい。そのような声もありました。

安全保障部門には香田洋二氏の『自衛隊に告ぐ』、松原実穂子氏の『ウクライナ企業の死闘』、山口芳裕氏の『CBRNE戦記』が選出されました。

『自衛隊に告ぐ』は海上自衛隊出身でもある著者が、制服の色や背広・制服の垣根を超えて提言する警告の書です。炙り出される数々の課題に対する指摘には、快く思わない関係者も少なくないかも知れません。それでも「タブー無く、かつオープンな議論こそが、わが国の守りには必要不可欠だ」という意見も上がりました。出身のみならず、陸上や航空が抱える課題への言及は、ある意味での各自衛隊に対する「360度評価」でもあります。

『ウクライナ企業の死闘』は、ウクライナ戦争を事例として、わが国でも「第四の自衛隊」と呼ばれる防衛産業の関係者必読の書として注目を集めました。火器は軍事組織(わが国においては自衛隊)の独壇場である一方、通信やエネルギーなどの基盤、あるいは金融や物流などは民間企業の協力なくして成り立ちません。「もしも」の時に、はたしてわが国はどうするか。選者の中には防衛産業の出身者もおり、とりわけ注目された一冊でもあります。

『CBRNE戦記』は前掲書と同様、医療もまた国家の安全保障において必要不可欠な特殊災害医療、いわゆるCBRNE(シーバーン)と長年向き合ってきた著者の半生記です。同分野の範囲は驚くほど広範囲にわたり、様々な知見の蓄積は一朝一夕で得られるものではありません。著者の歩みは決して主流ではなかったかも知れませんが、だからこそ自らの足で築いてきた地歩はかくも確かなものであり、また読者にとっては息を呑むものでもあります。

また、各部門以外でも特筆するべきと認められた書籍には、長らく財団副会長を務めた尾崎三女・相馬雪香の名を冠し「相馬雪香特別賞」として広範囲なジャンルより選出、ここに称えることと致しました。

赤根智子氏の『戦争犯罪と闘う』は、わが国にとってどこか遠い印象でもある国際刑事裁判所(ICC)を知るための導線としてふさわしい一冊です。同所が国際社会においてどのようなミッションを担っているのか、また責務を果たしているのかについても貴重なきっかけを与えてくれます。また選考の現場では「第三章の「私はこんなふうに歩いてきた」が一番エキサイティングだった、元気をいただいた」そのような声もありました。

プラン・インターナショナル・ジャパンの『紛争下を生きる女の子の物語気候変動に立ち向かう3人の女の子の物語』は、世界の女性が抱える困難を漫画で分かりやすく解説した好著です。わが国の関心が内向きになりがちな風潮に対しても二冊の書籍は「はたして日本は、それでいいのか」そうした疑問を投げかけます。
特別賞のシンボルでもある相馬雪香の「“困ったときはお互いさま”の精神が息づいている」といった声や、「国境を超えて助け合うことの大切さを考えるきっかけになった」などと評価するコメントもありました。

『オマルの日記 ガザの戦火の下で』は、今もなお戦火と隣り合わせにある著者のSNS投稿を書籍化した一冊です。ある選者の一人は『これは言わば、現代の「アンネの日記」だ』と激賞しました。テーマがテーマだけに、読んで心が晴れる本ではありません。それでも、こうした書籍は、ぜひとも光が当たって欲しい。本書の訳者・最所氏は見過ごせぬ思いから本書の翻訳執筆を企図されたとのことですが、選考委員会も同じ思いで本書を選びました。

『私はリーダーに向いてない:My Leadership Journeys』は、相馬雪香賞のみならず、咢堂ブックオブザイヤー初となる電子書籍および紀要(学術出版物)でもあります。昨今の電子書籍隆盛ならびに国立国会図書館でも電子媒体に対する取扱いや取り組みが進んでいる情勢を鑑み、このたび初の選定となりました。のべ5年間にわたる記録の数々は「未来の相馬雪香たち」の登場や活躍を予感させるに十分で、今後の活躍にもエールを贈りたいという意見が寄せられました。

この「咢堂ブックオブザイヤー」は2014年の初開催から今年で12年になり、毎年末の発表においては各方面からさまざまな反響をいただくようになりました。
時には厳しいご意見も頂戴し、また選考委員会でも「抜かりはないか」「漏れはないか」ご議論が白熱する場面も年を追うごとに高まりつつあります。本年の結果につきましても、そうした中での発表公開の運びとなりました。
選書にあたっては選考委員会内でも日々議論を重ねながら、直前のぎりぎりまで悩みます。とりわけ今年は、胃が痛む思いで発表の日を迎えるメンバーもおりました。
それでも私たち尾崎財団は、すべてのノミネート書籍を自弁で購入し※1、読み込んだ自負をもって各授賞作品を「咢堂ブックオブザイヤー2025」に選定し、著者はじめ出版に携わった関係者、出版社の皆様に対し、敬意と感謝を込めてここに讃える次第です。
また本発表をご覧の皆様におかれましても、ぜひとも政治の中心地・永田町1丁目1番地1号※2 で選ばれた各書の魅力に触れ、新たな年を迎える一助にいただけることを願ってやみません。



 以上文責・高橋大輔(尾崎行雄記念財団主任研究員、司書資格保有者)


※1:献本ノミネートや購入費用の予算計上・精算は一切なく、一読者としての購入が前提。     
※2:現在は改築のため、1丁目8番1号に代替移転中。