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Yukio Ozaki and his daughter
("Yukio Ozaki and his daughter" Yousuf Karsh,1950)

2019.2.20

すべての政治家必読の書


なぜ、政治家の失言はなくならないのか。
そんな事を思い浮かべながら、書架から取り出したのが本日紹介する一冊です。
その名もすばり「政治家失言・放言大全」(勉誠出版刊)。
みずからも衆議院議員を2期つとめたジャーナリスト・木下厚氏による、実に総ページ数782にもなる大著です。



書籍については後段で触れるとして、冒頭の問いに対し、筆者は3つの要因があると見ています。

ひとつは、平成期の象徴ともいえるインターネットの普及です。
SNS炎上などの洗礼を受けることのなかった、インターネット以前の政治家は果たして失言や放言がなかったか。数も破壊力も今の比ではなく、例えば中曽根康弘総理や「ミッチー」の通称で知られる渡辺美智雄・副総理などは外交問題(「知的水準」発言)や、人種差別問題(「アッケラカンのカー」発言)など、現代の基準ならば一発退場になるであろう爆弾級の代物が満載です。インターネットは、すべての発言の逃げ場をなくしてしまいました。


ふたつは、情報の受け手の不寛容。これは私も反省するところ大です。
つい先ごろ話題になった桜田義孝・五輪相や橋本聖子・参議院議員の発言で見られた「切り取り報道」には、前後関係を十分に確かめる間もなく「けしからん!」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
かくいう筆者もその一人で、迂闊に飛びついた己の反省を込めて本稿を書いています。
ネットの狂乱は、すぐに飛びつかず1日置くくらいが丁度よいかも知れません。


そして三つめ、一番は「政治家の不用心さ」。これに尽きるでしょう。
先の2氏をかばうわけではありませんが、足の引っぱり合いはいつの時代でもあるものです。
当財団のシンボルでもある尾崎行雄などは慎重居士であったにも関わらず、「共和演説事件」で文部大臣辞職に追い込まれました。また戦時下の翼賛選挙では「売家と唐様で書く三代目」と川柳を引用した応援演説が元で投獄された事もあったほどです。
いずれも議場外での発言であったにも関わらず、大きな話題となりました。

翻って冒頭に掲げた「政治家失言・放言大全」ですが、副題に「問題発言の戦後史」とあるように、終戦後から現代にいたるまでの政治シーンを飛び交った失言や放言、あるいた暴言や妄言といったものが時系列に網羅されています。
古くは池田勇人・大蔵大臣の「貧乏人は麦を食え」発言や吉田茂首相の「バカヤロー」発言、変わったところでは有田二郎・衆院議員の「パン助、黙れ!」発言など。
また最新のものでは一川保夫・防衛大臣の「私は安全保障の素人だが、これが本当のシビリアンコントロールだ」ほか、平成25年までのものが収録されています。
そのボリュームは筆者秘蔵の書籍「レトリック事典」や「岩波世界名言集」と並べても引けをとらず、一冊だけでも真っ直ぐ立つほどです。


同書の刊行は2015年、すでに4年前の書籍なのですが、もしも最新の増補版が出るとしたら、その時の総ページ数はどれだけになるだろうか、1,000頁の大台を越えてしまわないだろうかと気になります。
ともあれこれだけの先人の教訓があるわけですから、現在の衆参両院の国会議員はじめ、すべての政治家の皆様にはぜひとも座右に置いていただき、同じ轍を踏むことのないよう願う次第です。


高橋大輔(尾崎行雄記念財団研究員)