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Yukio Ozaki and his daughter
("Yukio Ozaki and his daughter" Yousuf Karsh,1950)

2018.1.6

知事選に見た咢堂選挙の面影

尾崎財団が選ぶ今年の一冊「咢堂ブックオブザイヤー2017」。
咢堂・尾崎行雄の誕生日でもある12月24日に当ホームページ上でも発表されました。授賞作作品の選考結果および理由についてはメインページでも触れていますが、その中でも財団スタッフの一人が注目した選挙部門大賞「64万人の魂 兵庫知事選記」について触れたいと思います。

64万人の魂

同書は2017年7月の東京都議会議員選挙とほぼ同時期に行われた兵庫県知事選挙に挑んだコラムニスト・勝谷誠彦氏のルポルタージュです。
出馬に至る経緯から選挙戦の舞台裏、それを支えた人々の群像が描かれていますが、ここには咢堂・尾崎行雄が生涯貫いた理想選挙の一類型と、選挙候補としての尾崎との相似を見ることができます。

1.有権者による物心両面の支援

尾崎自身も数々の著作で触れていますが、連続当選25回・衆議院在職63年の最長不倒を打ち立てた一番の原動力は伊勢の支持者による物心両面の支援でした。
選挙が多くの資金や人手を要するのは、残念ながらもわが国特有の現実です。
兵庫県知事選では、県内外はおろか海外からも献金やボランティアが相次ぎ、候補者の負担は最小限で済んだそうです。

2.候補者自身が文筆家である

尾崎行雄は政治家であると同時に、若かりし頃は新潟新聞の主筆や郵便報知新聞の論説委員を務めた、ジャーナリスト出身政治家の草分けでもあります。
出世作となった『尚武論』のほか『新日本』という政治小説も手掛け、その執筆分野は縦横無尽でありました。

尚武論 新日本 人生の本舞台

現代においては長文向けのブログや短稿に適したツイッターやフェイスブックなどが有り、およそ全ての選挙候補が自らの主張を発信することができます。
そうした中においても、著述で生計を立てた経験のある選挙候補は希少です。

3.候補不在でも止まらぬ選挙活動

尾崎の場合は特異中の特異ではありますが、尾崎行雄が外遊中に選挙が行われた際、後援会が届け出や選挙戦の一切を取り仕切り、異国にいながら当選したという前代未聞の出来事がありました。
その際、尾崎の応援弁士や書生は同時珍しいレコード盤と蓄音機を抱え、各地の演説会場を回ったそうです。
当時の名残りと思しき蓄音機とSP盤は、当財団でも収蔵しております。


Youtube 尾崎行雄「正しき選挙の道」

勝谷候補の陣営でも、候補者が十分な活動時間を捻出できない分をスタッフの方々が懸命に埋められたそうです。現場の苦労がしのばれます。

4.飛び道具としての「手拭い」

大正デモクラシーの産物として普通選挙が実現した折、尾崎は「ふせん手拭い」なるものを制作しています。選挙の啓蒙と運動資金の獲得を企図したもので、現物が憲政記念館にも収蔵されています。
兵庫県知事選において、勝谷候補の陣営は「義」の一字をあしらったTシャツや「明るく楽しい兵庫県」のスローガンを掲げた手拭いやタオルを制作して選挙に挑んでいます。
財団スタッフが調べた限り、手拭いを携えて戦った選挙候補は、勝谷候補と尾崎行雄を除いてありません。
ちなみに尾崎が手拭いに込めた都々逸調の標語は、次のようなものでした。

「貧すりゃ鈍するならひはあるが 清き一票うるものか」

ふせん手拭い


現在も広く云われる「清き一票」は、尾崎の標語がルーツになっています。

5.真に称えられるべきは、他ならぬ支持者や有権者

尾崎の最長不倒を支えたのは尾崎自身の奮闘もさることながら、地元である伊勢の人々が尾崎の理念に共鳴し、生涯仕事をする場を与え続けてくれたことが一番の要因です。
同じことは、「粛軍演説」「反軍演説」で知られる兵庫県出身の政治家・斎藤隆夫を支え続けた出石(現在の豊岡市)の人々にも当てはまります。

斎藤隆夫 斎藤隆夫

ある財団スタッフの一人は「勝谷候補に尾崎行雄と斎藤隆夫のイメージを重ねられたら支援者の熱が一層高まり、違った結果になったかも知れない」と振り返っています。支援者あるいは有権者が誇れる選挙か、そして候補者か。永遠のテーマですが、少なくとも書名にもなった64万人の投票者の方々におかれては、結果こそ残念でしたが誇るべき戦いであったと思います。


ここに挙げた他にも、「64万人の魂」は、多くの点で尾崎行雄とその支援者たちが目指した理想選挙の一端を垣間見ることができました。
今回選出されたブックオブザイヤー授賞作品の数々はいずれも力作・秀作そろいでしたが、以上の理由から「64万人の魂」は異彩を放つ一冊として選挙部門の大賞となったことを付記しておきます。

授賞式では、著者の催事に駆けつける形で咢堂塾運営委員の高橋富代がプレゼンターを務めました。
当日の様子は勝谷氏のYoutubeチャンネルでもご覧いただけます。
https://youtu.be/-1TXnG0DA7s?t=1870