2019.9.22
「咢堂十二景」、もうひとつの楽しみ方
9月13日より憲政記念館で開催中の特別企画展示「尾崎行雄 没後65年-咢堂十二景を中心に-」。
令和初の開催となる今回は、同館の前身でもある尾崎記念会館の看板展示物でもあった競作「咢堂十二景」がメインです。
尾崎行雄の生涯におけるハイライトの数々を第二の故郷・三重県の画家たちが描いた異色の絵画集ですが、中でも「桂内閣弾劾演説」の一枚は、社会や歴史の教科書でお目にかかった方も多いことと思います。
およそ3か月半にわたるセミロングラン企画、今回は一風変わった展示の楽しみ方を皆さまにご紹介します。
その1:「13枚目の画」
のべ12枚の絵画は、年代順に以下のタイトルで描かれています。
新潟新聞主筆として赴任 (20歳、萩森久朗 画)
保安条例による東京退去 (29歳、小林藤四郎 画)
第一議会への登院 (33歳、橋本綵可 画)
東京市長として水源地調査 (46歳、中出三也 画)
桂内閣弾劾演説 (56歳、山尾平 画)
軽井沢での炭焼 (63歳、奥山芳泉 画)
芝公園で普選演説 (65歳、森谷重夫 画)
遺骨を抱いて神戸上陸 (76歳、平井憲廸 画)
辞世を懐に挑んだ林内閣弾劾演説(80歳、松生正彦 画)
池の平でのスキー (84歳、平野一男 画)
天皇陛下に拝謁 (88歳、松浦莫章 画)
ワシントンの葉桜 (91歳、山名武 画)
もしも展示をご覧になった皆さまが「13人目の画伯」として尾崎の生涯を描くとしたならば、どのような場面を思い浮かべるでしょうか。とりわけその旺盛な挑戦心は、還暦を経て晩節まで衰えることがありませんでした。
幕末から、明治、大正、昭和と4つの時代にまたがる尾崎の生涯は人生100年時代を考える上でも参考になることでしょう。
展示会場のエントランスとなるホール二階の回廊は、尾崎の年譜が掲載されています。ぜひ絵画に描かれていない、13番目のハイライトを見つけてみましょう。
その2:あなたならではの「一言」を見つける
今回の特別展では、尾崎が残した言葉の数々が絵画と共に展示されています。
皆さまが共感や感銘をおぼえるだけでなく、「私なら、この一言だ」ご自身にとってのたった一言、自身を奮い立たせる一言を見つけていただきたいと願います。なにも尾崎に限る必要はありません、古今東西の偉人や恩師、家族や友人からの何気ない一言でも構いません。それを思い出したり、再発見したりするきっかけにいただけると幸いです。
その3:「あなたにとっての十二景」は何か
展示会を訪れた皆さま一人ひとりには、それぞれ人生の節目や転機、あるいは苦労された時期があったかも知れません。仕事を辞めたり、体調を崩したり、あるいはかつてないほどの苦境に陥った方もいることでしょう。
けれども、それらを乗り越えて今日のあなたがあることは紛れもない事実です。
もしも、皆さまの人生の中から「〇〇十二景」が描かれるとしたら、何枚のハイライトが選ばれるでしょうか。すべて埋められたら、それは素晴らしいことです。
逆にあと1枚か2枚、あるいは数枚が浮かばなかった方も、それもまた結構だと思います。まだ描かれていない情景は、もしかしたら「これからの出来事」かも知れないからです。
十二点の絵画に描かれた尾崎の生涯ですが、けっしてすべてが順風満帆な訳ではありませんでした。
若き日の屈辱でもある「保安条例による東京退去」や、夫人テオドラを喪っての「遺骨を抱いて神戸上陸」などは、尾崎にとっても決して晴れやかなものではなかった場面です。人生、良いことばかりではありません。
還暦を迎えて半生を振り返った時には「心血を扱いで尽力した事柄は、誠に見苦しい結果を生じ、人に対して合せる顔もないほど、一生を無駄に過してしまったと思っている」とさえ述懐しています。
それが七十を過ぎたある時、尾崎は選挙区の三重県で病に伏します。その際に「人生の本舞台は常に将来に在り」と脳裏に浮かんだことがきっかけとなり、そこから尾崎の躍進がふたたび始まります。あるときは辞世の句を懐に忍ばせて議場に立ち、またある時は人生初のスキーにも挑戦しています。
そして何よりも、おそらく尾崎にとって一番の大仕事でもあった最後の訪米は1950年(昭和25年)、わが国がサンフランシスコ講和会議を経て国際社会に復帰する際の橋頭堡となりました。
当時の首席全権・吉田茂が会議に臨む1年前、尾崎は元駐日大使ジョセフ・グルーやウィリアム・キャッスル等が主宰する「日本問題審議会」の招きに応じ渡米。大戦で冷えきった日米両国のわだかまりをほぐし、雪解けに導く役割を担いました。実に90歳を過ぎてからの出来事です。
十二景を締めくくる最後の1枚「ワシントンの葉桜」は、まさに尾崎の人生観「人生の本舞台」そのものといって差し支えないでしょう。
どうか来場観覧された皆さまには展示を通じて、一人ひとりにとっての十二景、そして人生の本舞台を思い描いていただきたいと願ってやみません。
それが今回の展示を企画された衆議院事務局のねらいでもあり、そして一連の絵画が意味するところではないかとひそかに思う次第です。
記・高橋大輔(尾崎行雄記念財団研究員)